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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……尹儒、世純様にきちんとご挨拶なさい」
「…………」
世純の部屋に着くなり、尹儒は我の背後へと隠れてしまった。照れくさそうに、もじもじと身を捩らせている。こんなにも、人見知りだったのか――と我が子ながら驚きを隠せない。世純に対して驚いたというよりも、彼の側でじゃれつくように纏わりついている数人の童達に対して驚いたのかもしれない――。世純はあからさまに面倒そうな表情を浮かべつつ、その数人の童達の遊び相手をしているようだ。
「世純様――今日は薊と赤ん坊は此処におられないようですね……だから、世純様がこの子らの相手をなさっているのですか?」
「――左様。薊は私用があるとかで、今は妃宮へと参っている。まったく……このような子守りという面倒事を受け入れ、有ろう事か我に押し付けた薊も薊だ……それで、お主らが我に用があるとは一体何事なのだ?」
どうやら、魄は――まだ雄雛祭の着物を作る手解きをして欲しいとう具体的な頼みの内容を世純に話してはいないらしい。
僅かに遠慮がちな態度で魄が世純へと頼み込むと、我の予想通り――世純な顔がひきつった。
極力、面倒事は避けたいらしい――。
面倒そうな表情を崩す素振りも見せず、
「――断る!!」
と、きっぱりと言いはなった良くも悪くも正直者な世純を見て――我ら思わず吹き出してしまうのだ。
嫌々ながらも数人の童達の遊び相手をしている最中の世純を見るに――かつて、我に謂われなき罪を押し付け、とある島の郭へと流刑にまで処するように仕向けて強引に王宮を追放した男だったとは到底思えない。
時の流れとは、人を良い意味でも悪い意味でも変えるものだ――と、改めて感慨深く思う我なのだった。
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