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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ その夜の事――。 王宮内の守子達がほぼ寝静まった深夜に――我は世純を呼び出した。王宮内に見事に咲き誇る桜の木の下で、酒を交わしつつ――二人きりで話したい事があったからだ。 ひゅうぅぅっ……と吹き抜ける爽やかな夜風が心地よい。また、風が舞う度に仄かに桃色がかった桜の花びらが、ひらひらと舞い踊り――互いに手に持っていて溢れんばかりに酒が注がれているお猪口の中に落ちてゆく。 「……それで、折り入って我に何の話しがあるというのだ……燗喩よ?」 「実は……我は常々、不安に思っているんだ。魄の願いとはいえ新王になった我を他の守子達――特に、頭の硬い老人らは頑として認めようとはしない。そこで、世純――そちに頼みがある。魄には話してはいるが、張りぼての王である我の代わりに……尹儒がある程度大きくなり成人するまでの間、魄と共に王子である尹儒を密かに守ってはくれまいか?」 「――愚問だ、実に下らない。そのような事を我が行った所で何の意味があるというのだ?お主、それは……一時的とはいえ、尹儒の父親を降りるという意味だぞ……そのような事をしてあの童が満足するとでも?燗喩よ、このまま一晩此処にいて夜風で頭を冷やしたらどうだ?」 世純の言う事も最もだ――。 しかし、やはりどうしても悪い事ばかりを頭の中で想像してしまい、それを振り払うかのように勢いよくお猪口の中に注がれている酒を煽った。 「それより、燗喩よ……後の事ばかり考えず、目先の事を考えたらどうだ?お主、特有休暇をとったそうじゃないか……それに、雄雛祭も近々控えている……下らない事をあれこれと考えるよりも、今――父親として尹儒に何をしてやれるのか考える方が先なんじゃないのか?」 「…………」 何と答えればいいか分からなくなってしまった我の肩に手を置くと、そのまま世純は唇を呆然としている我の耳元へと寄せ――、 「今は王宮から少しばかり離れている隠喜野村の梅が見頃だそうだ。家族水入らずで過ごすのにはうってつけだぞ……王宮というこの鳥籠の世界から魄と尹儒を連れ出し、喜ばせてみよ……」 そう優しい口調で提案すると、そのまま闇夜に紛れて消え去って行くのだった。

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