49 / 89

王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「わあ、しゃ、かな……しゃかな……おしゃかなしゃんが……いー……ぱいっ!!」 「あれは、オイカワ……そして、あれはヤマメ――コイにヒメマス……そして、ニゴイ……」 と、澄んだ川の中を泳ぐ魚達の名前を興味深そうに眺めている尹儒に説明していた時、ふと隣でその子供特有の好奇心旺盛さから身を乗り出さんばかりに暴れる尹儒の体を苦労しながら必死で抱き締めていた魄の顔が――我が【ニゴイ】という言葉を出した途端に曇ってしまい切なげに眉を潜めた事に気付くと、そのままこれから言わんしていた言葉を飲み込んでしまう。 魄にとって【ニゴイ】には、いい思い出はないというのに――。 ここでは、深い理由を述べるつもりはないが――どうも前王と前王妃との間に心が抉られしまう程に嫌な事があったらしく、それに【ニゴイ】が関わっている――と、以前に魄の口から直接聞いたのだ。 「本当に……お魚がたくさんいますね……尹儒。このように沢山のお魚を見る事は王宮では叶いませんから――今のうちに、その可愛らしいお目々でこの光景を焼き付けておくのですよ?」 「はい、ははうえ……っ……!!」 一瞬、顔が曇ったものの――すぐに母としての顔つきに戻った魄が満面の笑みを浮かべながら尹儒の頬に口付けする光景を見て、我は二度と魄な前で過去の傷を抉るような浅はかな言葉は言わないようにしなければ――と改めて反省するのだった。

ともだちにシェアしよう!