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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【春の月】
ふっ――と周りを見渡した我の目に飛び込んできたのは、桜とはまた違う魅力のある赤い梅の花が山々に咲き乱れている光景だった。
「見よ……春が旬なのは川に泳ぐ魚だけではない。辺りを囲む山々にも……あのように春が旬の梅の花が咲き乱れている。このような絶景は中々、王宮内では見られない――尹儒、また……王宮を出てこうして家族水入らず三人で旅に出よう――気分転換に旅はうってつけだ」
「は、はい……ちちうえ……また、しゃんにんで……きたいでしゅ……」
「本当に見事な梅だこと……こればかりは、ここが梅の名所だと教えて下さった世純様のおかげでございますね。そうだ、夏になれば――王宮の近くの貧民街で縁日が行われます……私もかつて、母と共に行きましたが……とても楽しかったですよ――夏になったら、ぜひ三人で縁日に行きたいものですね」
家族水入らずで過ごす休暇の時はあっという間に終わりを告げ、我々三人は互いに山々を覆い尽くす程に咲き乱れている真っ赤な梅の花の名所の光景をしかと焼き付け、名残惜しかったが宿へと戻ってから丁寧に中年夫婦へと礼を述べると――再び、我々が日々を過ごす【鳥籠のような王宮】へと戻って行くのだった。
我を【張りぼての新王】と揶揄する輩が蔓延っている王宮に戻るのは憂鬱だったが、それよりも今の我の頭を支配しているのは、これからくる夏に行われる縁日とやらは――どのような楽しみがあるのだろうかという事だけだった。
我は未だに縁日とやらに行った事がない――。
そのため、縁日に行った経験がある魄に聞けばすんなりと教えてくれるのだろうが――少し考え直し、やはり聞くのは止めておいた。
(楽しみは――楽しみのままとっておこうとするか……)
と、そのような事を思いつつ――無意識のうちに自然と笑みが零れてしまうのだった。
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