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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【夏の月】

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 特有休暇をとり、王宮から離れて家族水入らずで宿に泊まり春ならではの食材を使った料理を堪能したり、山々を覆い尽くす程に咲き乱れる梅を見たあの春の日から一体、どのくらいの月日が経ったのだろうか――と我は忙しなく押し寄せてくる書類に目を通して処理しつつ、ふと疑問に思った。 (……尹儒、魄は元気にしているだろうか……最近――以前よりは多少、守子らから信用されつつある故に……彼らと公務する事が主になってしまって中々顔を合わせる機会がない――もう、夏の盛りが近づきつつあるのに――) ――結局、あの春の日以来……家族水入らずで旅などできていない。 このままでは尹儒だけでなく、魄にまで父親としての役割を果たしていないと呆れられてしまいそうだ。 (今宵は少しばかり余裕がありそうだし、久方ぶりに魄の寝所を参ってみるとしよう……それにしても気が狂いそうになる程に暑い……) みーん、みん……みん……みーん…… じぃぃーっ……しゅわ、しゅわ…… あまりの暑さゆえに、完全に開け放たれた窓の外から蝉の鳴き声が聞こえてくる。その甲高い蝉の声のせいで、書類仕事に集中出来なくなってしまった我は一旦、部屋から出て気分転換をしようと――ある場所に向かって廊下を歩いて行くのだった。 公務の途中で部屋を出て、廊下を歩いて行く我に対して引き止める者は誰もいなく、ただ頭を下げてくるだけだった。そういう意味で、我は未だ完全には守子達から王として信頼されている訳ではないらしいと悟り、少々傷つきながらも――中庭へと歩いて行く。 ※ ※ ※ ※ (相変わらず立派な桜の木だ――桃色の花をつけていなくとも――その見事な存在感は季節関係なく素晴らしい……いずれ、我もこの桜の木のように……) 立派な国王に――そして誇れるような父親にならなくては、と桜の木を見上げていた我は急に背後から何者かに抱きつかれ、完全慌てて振り返った。 意外そうな表情を浮かべながら、我の背後に立っているのは―――何よりもかけがえのない家族の魄と尹儒だったのだ。

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