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王と王妃と白い鬼との徒然なる日々――【夏の月】
「…………」
【はくおう】なる男童は尹儒から半ば無理やり口を開けさせられる状態となり、遂に根負けしたのか渋々ながら西瓜を一口食べる。すると、今までふてくされ眉間に皺を寄せていた【はくおう】の顔つきが途端に柔らかくなり――先程とは、まるで別人のように一瞬だけ笑みを浮かべるのだった。
――しゃくっ……しゃく……
「おにいしゃん……しゅいか……おいしいでしゅか……?」
「……う、うまい。これでよいだろう……おれは――へやに、もどる……っ……!!」
【はくおう】が夢中で西瓜を食べる様をにこ、にこしながら面白そうに見ていた尹儒が感想を尋ねると、彼は精一杯の照れ隠しなのか耳まで真っ赤にしつつ、そっぽを向きながらぽつりと呟いた。こういう所は、ちちさまと【はくおう】が言っていた世純によく似ていると思った。おそらく、【はくおう】なる男童も自分の純粋な気持ちを素直に伝えるのが苦手なのだ炉つ。その気持ちは、我に分からなくもないのだ。
――すると、
「おにいしゃん、しゅいかの……おしるまみれ……それは、めっ……だから……こっちむいて!!」
――ぐいっ……
と、尹儒なりの精一杯の力で【はくおう】の顔を己の方へと強引に向けさせる。そして、確かに尹儒の言うとおり――夢中で食べたせいで西瓜の汁まみれとなった【はくおう】の頬にそのまま自分の唇をおもむろに寄せると、そのまま――ちゅっ、ちゅっと困惑する表情を浮かべている彼の事などお構い無しに吸い付いてしまうのだった。
「なっ……なっ……い、いきなりなにするんだよっ……!!?」
どんっ……!!
案の定、尹儒は慌てふためいている【はくおう】から突飛ばされてしまい、その拍子に地面に尻餅をついてしまったため、その直後に火がついたように泣きわめいてしまうのだった。
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