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王と王妃と白い鬼の息子との徒然なる日々――【夏の月】

「わあ……きれい、きれい……ちちうえ、おそらにさいている――あの、おはなは……なんていうの?」 「あれは、花火だ――そうか、王宮でも滅多に花火なんて見られないから……尹儒は初めて見るんだったな……ちなみに、流石にあれは持ち帰る事は出来ないぞ」 我がその無邪気な問いかけに答えた途端、尹儒はがっくりと肩をおろしつつ落ち込んでしまう。どうやら、本気で花火を持ち帰るつもりでいたらしいのだ。子供の考える事は恐ろしく単純で、そして躊躇など一切ないほどに大胆だと思ってしまった。しょんぼり、と肩をおろして落ち込んでしまっている尹儒に対して何と言って慰めるか我が思い悩んでいた時――、 「尹儒……父上の仰る通り花火は持ち帰る事は出来ませんが、あのお魚であれば持ち帰れますよ?ほら、あそこを見てご覧なさい……」 「ほんとだ……おしゃかなしゃん、おしゃかなしゃんが、いーっぱい……いる!!あかいのも、くろいのも……たくしゃんいる!!ははうえ、ははうえ……あれはなんというのでしゅか?」 「あれは――あれは、金魚すくいです。そんなに欲しいのであれば、やってみますか?でも、子供だけでやるには難しいと聞きますから……この私も手伝いますよ……さあ、行きましょう……愛しい我が子……」 「はい、ありがとうなのでしゅ……ははうえ!!」 ふいに、辺りをきょろ、きょろと見回した魄が我に助け船だ、といわんばかりに落ち込んでいる尹儒に優しく声をかけてくれたのだ。おそらく、魄は尹儒が花火の他に興味を移しそうな物を機転をきかして探してくれたのだろう。 ゆっくりと差し出してきた魄の手を、ぎゅうっ……と尹儒が固く握り返すと、そのまま【金魚すくい】と書かれた看板が掲げられている屋台の方へ夢中で駆け出そうとする二人の姿を必死で追いかけながら――やはり、家族水入らずの時間を過ごすのも悪くないなと我は改めて思うのだった。

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