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第12話

 翌日も休日のため、戴智は東の部屋に泊まった。盆休みが過ぎれば、プレゼンに向けてのラストスパートで、休日は週一になってしまう。休日出勤の日もあるだろう。  その日は東が泡風呂にしてくれた。泡風呂入浴剤をバスタブに入れ、ジェットバスのスイッチを入れた。ふわりと花の香りが広がり、バスタブは泡で満たされる。ワゴンにシャンパンが入ったアイスペールとグラスを乗せて運び、二人は泡風呂に入った。戴智の前に、東が座る。 「…まるで恋人同士みたいじゃないか…」  東からシャンパングラスを受け取り、戴智は照れながらシャンパンを飲み干す。 「いずれ、僕と戴智さんは番になります。恋人でもいいじゃありませんか」  番――生殖能力が無くても、なれるのだろうか――  真っ白な泡を見つめ、そう考える戴智は気づいていなかった。  東との番を“拒否”しているのではなく、“可能性”を考えていることに。 「戴智さん…」  ほんのり頬を染めて後ろを振り向く東が、やけに色っぽい。 「ん…」  唇を重ねる。絡まった舌は、口内に残る互いのシャンパンを味わおうとしているようだ。  戴智の指が、東の乳首に触れる。白い泡から覗くくすんだピンク色の乳首は、戴智の愛撫で硬くなる。 「あっ…」  両方の乳首を、少し指でつまんでみた。 「あんっ…気持ちいいっ」  さらに力を入れてみる。少し高めの嬌声が響く。指の腹で撫で、ときには強くつまむ。少しの刺激でも敏感に反応するのが楽しくて、戴智はいつまでも東の乳首をいじる。東は戴智の両腿をつかんだ。 「もっと…痛くして…」 「こんなのが気持ちいいのか? いやらしい体だな」  戴智の侮蔑の言葉が、風呂場にエコーする。それに重なり、乳首をいじられた東の嬌声が響く。 「下はどうなってるんだ? ん?」  後ろから戴智が東のペニスを握った。オメガにしては少し大きめのペニスは、すでに硬くなっている。 「はあっ…」  ギュッと強く握られるものの、戴智は擦ってくれない。 「戴智さ…、もっと」  戴智の手が緩む。 「もっと痛くしてほしいのか?」  今度はもっと強く握る。 「ああっ」  焦らされて、東は自ら腰を振った。 泡が跳ねる。泡のせいで見えないが、東は戴智の太腿に手を置いて、腰を振っている。その淫らな様子を頭の中で描いて、戴智の下半身にズシンと衝撃がくる。 「あ…戴智さ…ん…、出るっ…ああっ」  体をのけぞらせ、戴智にもたれる形になって、東が果てた。 「風呂の中で射精してしまうとはな。今度はもっと恥ずかしい目に合わせてやろうか?」  振り向いてうっとりとした目で戴智を見つめ、東は戴智にキスをした。 「戴智さん、あなたも気持ちよくなりたいでしょう?」 「いや、俺は…」  勃たないから、という言葉を口の中でつぶやいていると、正面を向いた東が、戴智の両膝の裏に手を添え、持ち上げた。 「うわっ?! 何してるっ」  深い風呂なら、泡を飲んでしまうところだった。驚く戴智の尻の間に、東の中指がもぐりこんだ。 「うっ!」 「前立腺マッサージです。勃起しなくても、気持ちよくなりますよ」  戴智のアヌスの周囲に、優しく触れる。戴智はセックスのときには、女性相手のときはもちろん、男性相手にもタチ側だった。アヌスを触られたのは初めてだ。 「力を抜いて――楽にしてください」  指がゆっくりと中に入る。じわじわと侵入するたび、戴智の震える声が上がる。 「くっ…、ふぁっ」 「大丈夫」  東の優しいキスが落とされた。口内をぐるりと回る舌は、頭を撫でて落ち着かせてくれるようで、戴智は安心して力を抜いた。  東の中指が、グイッと曲がる。 「あっ…は…」  初めての感触に、言葉が出ない。夢中で東の舌を吸う。  指が引く。また押す。前立腺を愛撫する。また引く。  それを繰り返すうちに、戴智の膝が震える。体が沈みそうになる。体じゅうに、熱い何かが走るようで、下半身にえもいわれぬ感覚がある――  ふいに、戴智のペニスが握られた。 「戴智さん、少し硬いですよ」 「えっ…?」  東に促され、戴智はバスタブの縁に腰かけた。昨夜と同じくセックスができる硬さではないが、少し大きくなっていて勃ち上がりかけているといった感じだ。  湯でペニスの泡を洗い流すと、東は口に含んだ。 「うわっ…!」  戴智は顔を覆った。東の舌が弾力のある亀頭をつつき、カリ首を舐める。深く口に含むと、思い切り吸いあげる――バキューム・フェラだ。  しばらく東のフェラチオで夢見心地だったが、戴智のペニスは萎えてしまった。どんなに口で愛撫しようと、前立腺マッサージをしようと、戴智は反応しなかった。  戴智はバツの悪さから、顔を覆って汗を拭った。 「すまない…。頑張ってくれたのに」 「いいえ、お気になさらず。それより、戴智さんは勃起できる可能性があるとわかったのですから」  仮に勃起はできてセックスができても、子孫は残せない。  東の気遣いも、勃たせてくれたことも嬉しいが、手放しで喜べる状態ではない。  その日はベッドの中で、東が隣で戴智の手を握り、いつまでも眠れない戴智に付き合って長話をしていた。

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