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第16話

 早朝に釣りをした。カツオが釣れた後、クルーザーで西に進む。東がキッチンで調理をしている間、戴智はイカ釣りの仕掛けを作った。道糸に等間隔にビーズを通し、少し細いハリスを横から通して餌木に結びつける。  いくつもの色鮮やかな餌木が海の上を舞い、海中に沈んでいく。カツオのいい匂いをかぎながら、戴智は竿を動かしてイカが誘われるように煽る。  しばらくすると、手応えがあった。引き揚げられた獲物は、ケンサキイカだった。 「久慈! おかずを追加するぞ!」  時刻は正午を過ぎている。カツオのたたきとバター醤油で焼いたイカをおかずに、ご飯を食べた。  戴智一人のときは、釣った魚を塩焼きか刺身にするかのどちらかだった。料理上手な東のおかげで、おかずのレパートリーが豊富だ。  それに一人で釣りをするのも、ただの人間として大自然の海と向かい合える、そんな醍醐味があるが、東ととりとめのない話をして獲物がかかるまでのんびり過ごすのもいい。  東は戴智に、新たな楽しみをもたらしてくれた。  クルーザーはさらに西へ。蒲郡のマリーナに到着した。  その夜もシャワーの後は、東は戴智をだきしめてキスをするだけだった。 「お前はそれで我慢できるのか?」  戴智が東の上に覆いかぶさる。欲望にまかせた激しいキスの合間に、東の硬くなった乳首に触れる。 「あっ…ん…」  敏感になった乳首に、戴智が吸いつく。甘噛みすると、東はさらに甘い声を上げる。  乳首を舌で愛撫しながら、戴智は東のペニスに手を伸ばした。 「ほら…もう濡れているじゃないか」  濡れた先端を指先でクルクル撫でると、太く育った茎はビクビクと反応する。 「だ…だめ…です、戴智さ…」 「ほら、脚を開いてみろ」  双丘の奥深くに隠されたアヌスを指で探し当て、挿入する。東の先走りをまとった指は、難なく入っていく。  東がしてくれたように、戴智も優しく前立腺をつつくマッサージをする。 「だめ…、もう…」  体をのけぞらせ、しきりに首を振る東を見ていると、戴智の胸が早鐘を打つ。先走りが糸を引き、赤味をおびた肌に落ちる。 「いいんだろ? 気持ちいいこと、もっとしてやるぞ」 「戴智さ…あ…」  ゆっくり指を引くと、穏やかな波のように押し返す。緩慢な指の動きはかえってエロティックで、むしろ東を翻弄する。 「また、いやらしい犬になったお前が見たい」  激しく抜き差しをするのではなく、あくまでソフトタッチだ。そのじれったさと、耳に響く戴智のいやらしいささやきで、東はドライオーガズムを迎えた。  翌日は志摩に着いた。マリーナでクルーザーを停め、水着に着替えパーカーを羽織り、折りたたみ式のデッキチェアーとビーチパラソルを抱え、海水浴場まで歩く。盆休みで海水浴客が大勢いるが、ブイの手前は泳ぐ人が少なく、遠泳にもってこいだ。久しぶりにいい運動をして、砂浜のデッキチェアーで休む。ナイロンの座面だが、泳ぎ疲れた体を休めるのに十分だ。  頭の後ろで手を組み、戴智がつぶやく。 「秋に来れば伊勢エビが解禁だけどな…」  東がサングラスを上げ、戴智の方を見てクスクス笑う。 「泳ぎに来ていても、釣りのことを考えてしまいますか?」 「ああ、泳ぎよりも釣りが好きだからな」  海の家で買ったスポーツドリンクを飲み、戴智が東に尋ねる。 「東はどこの海が好きだ?」 「僕はニューカレドニアですね。戴智さんは?」  今度は戴智がサングラスを上げ、東の方を見た。 「俺は海外ではハワイ島、ビッグ・アイランドだな。ワイキキよりも、荒っぽいのがいい」  黒砂海岸、ワイピオ渓谷。人の手が入っていない大自然そのままのダイナミックさを味わえる。 「じゃあ、日本ではどこですか?」 「そうだな…与論島の百合が浜だな」 「あの、大潮のころの干潮時にしか現れない、サンドバーが有名ですね」 「ああ、あれはきれいだった」  青い海にぽっかり浮かぶ、縞模様が美しい白い砂浜。二人の脳裏に、幻想的な光景が浮かぶ。  運動して一休みすると、今度は腹の虫が鳴った。  昼食は近くの食堂で、アワビやサザエ、ハマグリなどの潮焼きでビールを飲んだ。 「戴智さん、今度は与論島で釣りをしませんか」 「そうだな。まとまった休みとなると正月だから、冬に釣れるのは――」  旅の計画を立てるのは、いくつになってもワクワクする。まだ旅の途中なのに、戴智と東は次の旅の話に花を咲かせていた。  その夜、戴智はいきなり東をベッドに押し倒した。バスローブを脱がせる手は、どこか焦っている。 「東…下半身がうずいて仕方ないんだ…」  東の手を取り、股間に触れさせる。完全な勃起ではないが、半勃ちだ。 「戴智さん、焦らずもう一晩、待ちませんか? 今はまだ、挿入することを考えなくてもいいんです。ただ、こうして――」  東は戴智の頭の後ろに手を回し、引き寄せた。 「じっと、お互いの熱を感じ合う、それでいいんです」  髪を撫でられ、戴智は東の肩口に額を擦りつけた。東の肌の感触が好きだ。こうしていると落ち着く。何日も東の感触を感じて過ごしていると、王永市の別々の家に帰ってからは一人で眠れないのでは、そんな気さえしてくる。

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