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第25話
「はっ…、や…やめてくださ…」
東の抵抗も聞かず、戴智は東のベルトを緩め、手をねじこむと下着の上から東のペニスに触れた。
「ほら…俺に抱かれるのを待ってるんだろ?」
「くっ…」
東は右手で戴智の手を押さえる。だが、戴智の手は止まらない。東のペニスを下着から出して扱いた。次第に東は、太く硬くなっていく。
「こんなに大きくして…可哀想に…。俺が可愛がってやるからな」
東のコットンパンツと下着をずり下ろすと、アヌスに指を当てた。少しずつ指の腹で揉むと、ゆっくりと中に侵入する。
「あぁっ、だめ…!」
後ろも前も戴智に蹂躙され、拘束されているわけではないのに、東は逃れられない。
「さあ、自分に正直になれ。昨夜は、俺無しでは生きていけない、と言ってただろう」
戴智も硬く勃起したペニスを出し、東に挿入した。
「んっ…! だ、だめ…です、戴智さん…!」
拒んではいるが、東の中は戴智を歓迎して、食らいついてくる。
「愛してる…東」
戴智は東のペニスを擦りながら、激しく腰を打ちつける。シンクの縁に手をかけたまま、東は抵抗もできずあえぎ続ける。東の目には涙が浮かんでいた。ほんのわずかな時の間に、許されない恋人同士になってしまった。その悲しさと、いけないとわかっていながらも体は反応し嬉しさに震えてしまう、そんな罪悪感からだ。
「たい…ち…さ…」
東は唇を強く噛んだ。それ以上、言葉を継がないために。内からあふれてくる切ない思いを、伝えてしまわないように。
「東、俺は諦めない…。東を…離さないからな…!」
絶頂を迎えた戴智は、東の中に全てを吐き出した。愛しさも苦しさも。
後ろから何度も東の名を呼び、ほんのり赤みがさしている頬や耳やうなじにキスをした。戴智がペニスを引き抜くと、東はその場にへたりこむ。
「戴智さん…」
東が顔をふせる。戴智がしゃがんで顔を覗きこもうとしても、視線をよけてしまう。
「何だ?」
「もう…二度と僕にこんなことはしないでください…。伯父様や親族の皆さんに関係が知れたら…」
「東!」
戴智が東の肩をつかむと、ピシャリとはたかれた。
もう一度押し倒して、素直になるまで犯し続けたい気分だったが、戴智は身繕いをすると東の部屋を出た。
週明け、勝利にわいている『新開発部』は、活気づいている。それに反してリーダーであるべき戴智は、休日の間にげっそりとやつれたようだ。それは東も同じなのだが、東は顔に出さないよう努力している。
「王永部長、科学技術協会より新たな部品の発注が来ました」
戴智の個室に入ってきた東は、戴智に書類を渡す。
「ご苦労」
書類を受け取ると、東は即座に手を離した。戴智と手が触れるのを拒んでいるようだ。
それからも東は、淡々と仕事をこなす。時折、デスクから戴智が視線を送るのだが、東は反応しない。じっと見ていることは気がついているはずだ。
金曜日は、あんなに甘い夜を過ごしたのに。同じ部屋にいるにも関わらず、東が遠い存在に思えてしまう。
いっそ、父に東のことを打ち明けようかとも考えた。だが、無駄に終わることはわかっている。駆け落ちして、国外に逃亡することも考えた。クルーザーを売却し、貯金を下ろせばしばらく生活はなんとかなる。けれど日本から離れたところで、仁英が諦めてくれるだろうか。そんな考えもよぎる。
戴智は事務的な態度の東に合わせ、自分も感情を押し殺して命令した。
「久慈、工場に様子を見に行く。車を出してくれ」
「かしこまりました」
工場の視察後。ベンツの後部シートから、戴智が話しかける。
「週末、磯釣りにでも行かないか?」
「部長、申し訳ございませんが…」
「上司と部下として出かけるのには、何も悪くないだろう」
釣りだけではすまないだろうと、戴智は思っている。戴智のクルーザーで行く以上、そこは海上の個室。カーテンで覆えば、ホテルも同然だ。
「今後、二人きりでは出かけられません」
東も然り。二人で行動すると、どうなるかぐらい察しがつく。
「…東、諦めずに、何とか俺たちがいっしょになる方法を考えないか」
東は無言で車を走らせる。海沿いの巨大なコンビナート。貨物船が停まっている港には、巨大なガントリークレーンが見える。工場は本社ビルと併設されているが、広大な敷地ゆえに車でないと移動が大変だ。ベンツの横を、トレーラーやクレーン車、フォークリフトが通り過ぎる。
「車を停めろ」
命令どおり東は道路をそれて、倉庫の前に車を停めた。戴智はすかさずドアを開けて外に出て、助手席に移動する。
「東、父の言いなりになっても構わないのか?」
「仁英伯父様の決定は絶対ですから」
戴智は東の肩を抱いた。強引に抱き寄せてしまおうと思ったが、今の東ならアクセルを踏んでこの場を逃げるかもしれない。そう思い、戴智は力をこめずに肩を抱いている。
「お前は最初、俺と番になれ、と父に命令されていたな。お前は何の疑問も持たず、それに従った」
東は何も答えない。いつでも車を発進できるよう、エンジンもかけたままでステアリングも握ったままだ。
「今度もそうなんだな。姉に“愛してます”と何の躊躇もなく言うんだろう。つまり、俺のこともその程度だったんだ」
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