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第26話

 東の肩がピクリと動いた。唇が動きかけたが、言葉を飲みこんだ。 「俺に対して愛してるだの、俺無しでは生きていけないだの言ったのも、全部父からの命令か?」  東の唇が震える。答えることをためらっている。 「こっちを向け!」  戴智は顎をつかんで無理やり自分の方に向かせた。東の目から、涙が一筋流れた。 「…もう…これ以上、苦しめないで…ください」  戴智の唇が、涙を吸い取った。そのまま、東と唇を重ねる。 「苦しいっていうことは、俺のことを諦めたわけじゃないんだろ?」  何度も音を立てて口づける。東には、抵抗する意志はない。むしろ、戴智の唇を受け入れている。 「東…!」  戴智が強く抱きしめた。東は戴智の背中に手を回す。 「戴智さん…あなたは悪い人です…。せめて僕に冷たくしてくれたら…諦めたかもしれないのに」  ジャケットの背をギュッと握られた戴智は、何となくつねられたような気がして胸が痛くなった。 「冷たくできるわけないだろう。俺にはお前しかいないんだ」  ネクタイのノットに指をかけられ、東は慌てて戴智を制する。 「だ、だめです。僕たちの間で、もうそんなことは…。それに、工場内ですから」 「じゃあ、週末に釣りでも行くか。クルーザーのベッドの上で、可愛がってやる」  東の顔が、カッと熱くなる。戴智は意地悪な笑みを見せると、東の股間に触れた。 「おや? 硬くなりかけてるな」 「い…いや、戴智さん…」  ベルトを緩め、ジッパーを下ろし、戴智は硬くなり始めた東のペニスを口に含んだ。 「あっ…、戴智さ…んっ」  愛しい人の口の中で、東のペニスは大きく育つ。戴智はスラックスをずらすと、尻の下に手をもぐりこませた。 「いやっ、こんな所で…!」  アヌスの中を指でゆっくりかき回しながら、赤くなった東の耳に、戴智はわざといやらしくささやいた。 「こんな所じゃなく、俺の部屋がいいか? めちゃくちゃにかき回してやるぞ」 「ああ…ん」  戴智の指の動きに合わせて、東のペニスが大きく揺れるのが可愛い。そんな可愛いペニスを、戴智は舌で存分に愛撫してやる。 「あっ…、いや…」 「いやって言うわりに、中はトロトロだぞ。まさか…俺とセックスがしやすいように、ヒート状態にしたのか? ん?」  また、耳元で低くささやく。 「いやらしい体だな…俺は大好きだぞ」 「戴智さん…!」  東が戴智にしがみついてキスをしてきた。 「やっぱり、諦められません…! あなたとこうして抱き合うのが罪になるなんて、気が狂いそうです」  汗ばむ髪を優しく撫で、戴智は額や頬にキスを繰り返す。 「俺が必ず、お前と番になれる方法を見つける。抱き合うのなら、こうして人目を避ければできる」  許されない仲だが、離れることはできない。幸い、戴智と東は上司と部下の関係で、いっしょにいても変に勘ぐられることはない。 「東…後ろを向いてくれ」  戴智がシートを後ろにずらして倒す。背もたれにしがみつき、東は尻を突き出した。  運転席は比較的広いが、大人二人が一つのシートに乗るのは無理がある。背をかがめて東に密着し、戴智は後ろから挿入した。 「あっ…、戴智さん…もっと…奥まで」  激しく突きたいところだが、車体が揺れていては工場の職員に気づかれてしまう。ゆっくりとした抽送で、東の中を擦る。 「あ…東…、声…抑えろ」  うずく体は激しいセックスを求めているのに、緩慢な動きで焦らされて、東はたまらなくなって声を上げる。  外に響いてしまうのを恐れ、戴智は東の口の中に指を入れた。 「うっ…、ん…」  指をしゃぶりながらも、声がもれてしまう。防音が行き届いた部屋ならば。クルーザーに乗り、誰もいない海ならば。あらん限りの声を上げ、互いの名を呼び、狂おしいほどに乱れることができたのに。  周囲をはばかっての逢瀬は、人前では気持ちを押し殺さなければならない。せめて、肌を重ねているときは、野獣のごとく燃えたいのに。 「あ…東…、このまま…つながっていたいな…」 「戴智さん…僕も…ずっとこのまま…あ」  このままいけば、東は一奈と結婚し、人目をしのんで戴智とセックスをするのだろうか。  それでもいいかもしれないが、跡継ぎを作らないといけない。東が姉の子を身ごもるなど、気が狂いそうになる。 「あ…東…!」  戴智は東の中で果てた。東も戴智の手に包まれて、精液を吐き出した。  しばらく東の背に覆いかぶさっていた戴智は、東の中から自分の精液をかき出し、ペニスもウエットティッシュで拭いてあげて、服をなおしてあげた。乱れた髪をなおしてやる間に、戴智はふと思いついた。 「東、以前に、俺が万が一勘当されることがあれば、お前は王永市以外の所で避妊手術をすると言ったな。その手はどうだ?」  東も子供ができない体となると、一奈と結婚せずにすむ。  だが、東は力なく首を横に振った。 「…あのときはうっかりしていましたが…。僕はオメガと判明したころから、戴智さんとの番が決まっていましたから、二十歳から毎年検査を受けていたんです」  子供が産める体か、病気は無いか。戴智が検査を義務づけられていたように、東も然りだった。  そのため避妊手術をすれば、すぐにバレてしまう。 「そうか…。じゃあ、ほかの方法を考えるか」  戴智も身だしなみを整えると、車は工場の出入り口に向かった。

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