35 / 51

第35話

 海からの初日の出を眺め、アルコールが完全に抜けるまで休んだ後は、クルーザーで帰路につく。  戴智が操縦する間、東はパソコンで写真を整理している。 「できたか、東?」  ヨットハーバーにクルーザーを停め、戴智は東の作業の様子を見る。 「はい、このフォルダがほかの人に見せる写真、こっちは見られないように保存しておく分です」  新婚旅行で写真の一枚も無いのはおかしい。他人や両親などに見せるため、東は一奈と、戴智は璃子とも写真を撮った。  さらに表向きは、戴智と璃子はクルーザーに乗り、一奈と東は沖縄でゴルフをして与論島で戴智たちと合流、ということにするので、そのつじつまを合わせる内容をメモ書きし、写真とともにそれぞれの携帯電話に送った。  戴智が淹れてくれたコーヒーでひと息つき、東は苦笑する。 「僕たちは旅行のたびに、こうして嘘をつかないといけないんですね」  戴智の胸が痛む。そもそも、この結婚が嘘なのだ。バレないように嘘の上に嘘を塗り重ね、分厚いコンクリートの砦となって、自分たちを守る。  どこからヒビが入るか、わからない。一度ヒビが入ればアウトだ。ヒビが見つかれば、さらに嘘で何重にも塗り固めて隠す。なんとも不格好な砦だ。戴智も苦笑した。 「いつまでも四人いっしょの旅行は、変に思われるだろうか…。たまには俺と東、姉さんと璃子さんで旅行、でもいいと思うが」  パソコンをシャットダウンし、東はコーヒーを飲み干した。 「それは構いませんが…。何で夫婦水入らずで旅行しないのか、問われるかもしれませんね」  一奈と東の場合、最悪仁英が決めた結婚だから、二人きりで旅行するほど仲はよくない、ですむかもしれない。  だが、戴智と璃子は恋愛結婚ということにしている。二人きりで旅行しなければ、まるで夫婦仲が冷めてしまっているようだ。 「いざ実行してみると、いろいろ厄介なことが多いな。この先、面倒が起きなければいいが」  コーヒーの味がやたら苦く感じる。旅行自体は楽しかったのだが、先を考えるとどうしても不安はつきまとうのだった。  年が明けた『新開発部』は、さらに忙しくなる。科学技術協会との連絡も増え、打ち合わせや実験の立ち会いなどが多くなる。戴智も外出する機会が増えた。 「王永部長」  東が電話を切ったと同時に、戴智が個室に戻って来た。 「本日予定しておりました科学技術協会との打ち合わせですが、都合が悪くなったために明日に延期してほしいとのことです」 「…そうか…。打ち合わせに必要な資料や工場からの報告書を集めてきたばかりなのにな」  戴智は自分の席に座り、天井を見上げた。 「ま、今日は定時で上がれそうだな」 「そうですね。たまにはゆっくりお体を休めるといいですよ。お茶でも淹れましょうか」 「いや、」  東の方をじっと見つめる。 「お茶より欲しいものがある」 「お茶やコーヒー以外でしたら、下の喫茶室に頼みましょうか?」  戴智はメモと万年筆を取り出した。何やら書きこんでいる。それを二つ折りにすると、指で挟んで東の方に向けた。  席を立って戴智からメモを受け取り、開いて中を確認した東は、頬を赤くして戴智を見る。  “俺の膝に座れ”  メモにはそう書いてあった。 「王永部長、今は仕事中ですよ」 「お前も以前、仕事中に俺を誘っただろう」  東の腕を引っ張り、戴智は強引に膝に座らせた。逃げられないように、東の腰をしっかりとつかむ。 「部長、家に帰るまで我慢できませんか?」 「できない」  わがままな駄々っ子をなだめるために、東は戴智の額にキスをした。 「これでは僕も部長も、仕事ができませんよ」 「今は休憩中だ。もっとキスをくれ」  仕方がないですね、と東は鼻の頭や頬にキスをする。戴智の頬を両手で挟み、唇にもキスをした。 「んっ…、はぁっ」  最初は唇が触れるだけだったが、そのうち二人とも熱くなり、舌を絡ませ吐息が混じり、唾液を互いの口内に送る。  戴智の手が東の股間に伸びる。硬くなり始めたそこを揉むと、東は必死に抑えた声を出す。 「うっ…、くっ…」  戴智が東のベルトを外し、窮屈そうにしていた分身を外に出してやる。 「だ、だめです…」 「こんなになってるのに、無理はよくないぞ?」  意地悪な言い方が、かえって東を煽る。  少し擦るだけで、先端からはしずくがあふれ出る。 「あ…戴智さ…ん」 「可哀想に…こんなに硬くなって涙を流して…。今、気持ちよくしてやるからな」  スラックスと下着をはぎ取られた。デスクの向こうから見るとジャケットとワイシャツ、ネクタイをきちんと身につけているが、下半身は靴下だけだ。靴はスラックスを脱ぐときに引っかかるからと脱がされた。 「戴智さん、何を…あっ」  戴智はデスクの下にもぐり、膝をついて東にフェラチオした。 「くぅっ…!」  戴智の絶妙な舌技で、東は今にも昇天しそうだ。上司の椅子で、下半身丸出しで、それだけでも恥ずかしいのに、デスクの下から意地悪な目が東を見上げる。  そのとき。  コンコンコン、とノックの音がした。

ともだちにシェアしよう!