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第39話
夢中で舌をむさぼり合い、後頭部を引き寄せていたはずの手は、パジャマのボタンを外し合う。
両方とも一糸まとわぬ姿になると、戴智はサイドテーブルの引き出しを開けた。
「久しぶりにこれを使うか」
戴智の手には、手錠があった。東が戴智と初めて、用意した物の夜を過ごしたときに使った物だった。
「持って来いと言っておきながら、一度も使ってなかったからな」
東はあお向けになり、手首をそろえて戴智の前に差し出す。銀色の輪が、東を拘束した。
「いいか、今日は絶対に動くんじゃない」
戴智の命令に、東がうっとりとした表情でうなずく。すぐに尻の下では、フェロモン臭のする粘液がシーツを濡らす。発情期をコントロールできるのだが、最近では愛液の量もある程度は調節できる。だが、興奮のあまりあふれ過ぎてしまうこともある。
「ほーら、何もしてないうちからそんなに漏らして、行儀が悪いぞ」
パシン、と軽く尻の横を叩かれる。衝撃にというより、甘い刺激に東の全身が震える。
「だって…戴智さんから何をされるか、考えただけで…」
後ろからだけではなく、前からも蜜があふれている。
「ほう…じゃあ、期待どおりにいじめてやるからな」
じゅるっと音を立て、戴智がフェラチオをする。口内で暴れる猛りくるった雄牛を、真っ赤な舌を自在に操るマタドールが押さえつける。
東は戴智の方を見た。勃起して、東と同じように蜜を垂らしている。自分もそこにむしゃぶりつきたいのに。
手首の拘束だけでなく、“動くな”の命令が、東の体をより熱くさせる。行き場のない熱は、発散されず爆発しそうだ。
戴智はローションをたっぷりと指に取り、東の秘門に突っこんだ。
「ひいっ…!」
引きつったような声を上げ、竿が大きく揺れる。
「何だ、まだ指を入れただけだぞ」
意地悪な笑みを浮かべ、ぐるりと中をかき回す。
もう片方の手は、まだ柔らかいままの袋を撫でる。オメガの特徴で少し小さめなそこが、戴智にもてあそばれる。
「あ…、だめ、そんなに…」
ローションと愛液が混じった粘液が、トロトロと流れ出る。オメガの匂いが、アルファである戴智を興奮させる。
東の中の指が、グイッと曲がった。
「ああぁーっ!」
体を大きく弓なりに反らせ、東は大声を上げた。屋内のほとんどが防音だからいいが、普通の家なら隣の一奈や璃子に聞かれてしまう。
戴智の指は、東の前立腺に届いた。戴智が勃たなかったときに、東がしてくれたマッサージは気持ちよかった。オメガである東は、アルファの戴智よりもここが敏感だ。そっと突くだけで戴智が望むような反応をしてくれる。
柔らかなタッチでそこを執拗につつかれ、東は息も絶え絶えになる。
「戴智さ…、だめ…、もう…」
頃合いを見計らい、戴智はコックリングを出した。シリコン製で太さを調節できる仕様だ。そのコックリングを、東の袋の根元にはめて、強めに拘束する。
「戴智さん…?」
戴智は東を見下ろす。
「これで射精はしにくくなった。何度でも雌イキさせてやる」
戴智が東の中に挿入した。指とは比べものにならない圧迫感があるが、愛液とローションでスムーズに入った。
「あっ、あっ、もっと…もっと…!」
東が夢中で腰を振ると、戴智が尻を叩いた。
「動くな。じっとしてろ。…それとも、もっと厳しく躾けられたいか?」
目尻に涙が浮かぶ。体の中にくすぶる熱を出し切れないじれったさと、戴智にいじめられる快感に。
やがて戴智の激しい律動に、いじめ抜かれてきた前立腺は悲鳴を上げてドライオーガズムを迎えた。
「はあっ…、もっと…僕を…、はあ…っ、しつ…けて」
荒い息を吐きながら、東は戴智を見上げた。汗で濡れた前髪をかきわけ、戴智は額にキスをした。額だけでなく、涙が溜まった目尻や鼻の頭、唇にも。
「今度は、いい子にしていたご褒美だ」
首筋や喉仏、鎖骨や乳首、あらゆるところにキスを落とす。落とすのはキスだけでなく。
「愛してる…東」
愛してるの言葉の雨が降りそそぐ。雨は洪水となって東を溺れさせる。
何度か最奥を突くと、また東はドライオーガズムを迎えた。
戴智が東の体を裏返し、うつぶせにさせる。右の手首から手錠を外す。戴智は東の背中に覆いかぶさると、空いた手錠を自分の左手にはめた。
「もう、お前を離さない。一生、俺たちはいっしょだ」
同じ指輪――プラチナで平打ちのリングをはめた左手同士。
一奈と璃子もプラチナで似たような太さだが、丸みのある形だ。一見同じ指輪に見えるが、よく見ると違う。
戴智の左手が、東の左手に重なる。
「愛してる」
「僕も愛してます…戴智さん」
後ろから密着した体位で挿入し、戴智が絶頂を迎えるころには、東は三度目のドライオーガズムを迎えた。
汗と愛液とローションで濡れたシーツは気持ち悪いが、いつまでも離れたくない二人は、結合部分も手錠もそのままで、しばらくまどろんでいた。
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