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第40話
ゴールデンウイークは、四人でパリとミラノ旅行だ。買い物と美術館三昧の一奈と璃子、観光名所や小料理屋でグルメの戴智と東。
一奈と璃子のカップルと、コンコルド広場で別行動した。一奈たちは、以前ルーブルやオルセーを見たので、オランジュリー美術館に行った後、シャンゼリゼ通りで買い物をした。服にバッグに靴、アクセサリーまで。買った物は日本に送った。
戴智と東は、チュイルリー庭園から足を伸ばしてムーランルージュの辺りまで散策し、小料理屋に寄った。
パリで三日間の滞在の後、飛行機でミラノに渡る。ミラノ大聖堂を見学した後、一奈たちはリナシェンテで買い物をして、ブレラ絵画館へ。
戴智と東はレンタカーでドライブをする。カーナビを頼りに教会を巡り、途中シーフードのレストランで休憩をした。
夜になり車を返した後は、イタリア産のワインでおいしい地中海料理とピッツァを楽しむ。
去年のゴールデンウイークは憂鬱だった。何度目かの健康診断で、もう何度も見た診断結果。結婚もできない、一族に不必要な人間、そう思っていた。その直後に、生涯をともにするパートナーに出会えるとは思わずに。
ホテル最上階のレストランで、スイスへと続くティチーノ川を遠くに臨み、戴智はしみじみとつぶやく。
「東が『新開発部』に来てから、一年になるんだな…。たった数ヶ月で、お前がこんなに大切な人になるとは思わなかった」
「僕もですよ」
ワイングラスをゆっくりと回しながら、東はおかしそうに笑う。
「あんなに僕を邪険にしていらしたから、まさか一年後には番になって、こうして旅行に出かけるなんて想像できませんでしたよ」
大聖堂の幻想的な夜景は、日常を忘れさせてくれる。“今、まさに旅をしている”。普段食べるものとは違った料理も相まって、そんな気分を高めてくれる。
「また…ここに来たいな」
「今度は十周年の記念に、なんていかがですか?」
東は戴智のグラスに、自分のグラスを軽く当てる。十年後も、こうして錫婚式の記念日を祝いたい。
「そうだな、その時は二人きりがいい」
ヨーロッパ旅行が終わり、四人が乗った飛行機は日本に着いた。飛行機はファーストクラスのカップルシートを使い、長時間のフライトも快適だったが、遊び疲れと時差の疲れがある。くたびれた体で、四人はバス乗り場に並ぶ。
「璃子、どうしたの?」
璃子の顔色が悪く、息づかいも少し荒い。ただの旅行疲れのようではない。
「ごめんなさい…少し気分が…」
足元がふらついて、後ろにいた東に支えられる。
「ご気分が悪いのでしたら、バスに乗るわけにはいきませんね」
戴智も心配そうに璃子の顔を覗く。
「空港内の医務室に行こう。何だったら、姉さんと璃子さんは近くのホテルで泊まるといい」
一奈はうなずいて、医務室に向かった。
着替えなどの余分な荷物や土産は航空便で送ったから、手荷物程度しか無く身軽なのが幸いだ。
戴智と東はロビーで待つ。璃子の体が心配で、二人とも口数が少ない。
しばらくして、戴智が腕時計を覗いた。
「…ずいぶん、時間がかかるな…。まさか、病院に搬送とか…」
状況がわからないと、悪い方に考えが向いてしまいがちになる。
「そうなれば、一奈さんから連絡があると思います」
東がそう言った途端、戴智の携帯電話が鳴った。一奈からだ。
悪い予感を話していたタイミングだけに、二人とも不安げな顔を見合わせた。
「もしもし、姉さん?」
《あ、戴智。悪かったわね、心配かけて》
「いや、俺たちのことはいいんだ。璃子さんの具合は?」
《それがねぇ》
電話の向こうからは、明るい笑い声が聞こえる。
《おめでただったのよ。つわりの症状が出ただけなの》
「何だって?!」
専門の病院ではないからわからないが、最終月経から計算して、およそ二ヶ月といったところだろう、という診断だった。
《空港の医務室に、妊娠検査薬まであるのよ。もちろん詳しい検査が必要だから、連休明けに一度病院に連れて行くわ》
璃子の症状が落ち着いたら帰るからと、戴智と東は一奈から先に帰るように言われた。だが、万が一帰る途中で倒れたりすれば男手があった方が安心だろう、と戴智と東も付き添って帰ることにした。
妊婦のため薬を飲むことはできないが、症状が落ち着いて乗り物酔いの心配は無さそうなので、シャトルバスで帰ることにした。バスを降りても、そこから自宅までタクシーに乗らないといけない。道中は三人で璃子の様子を見る。
「ご迷惑おかけして、すみません」
戴智が笑顔を見せる。
「迷惑じゃないですよ。子育てがもう始まっていると思えば」
一奈と璃子の子供だが、表向きは一奈と東の受精卵を代理出産することになっている。戴智も東も、父親として育児に参加する。
「東、男の子だったら釣りに連れて行こうな」
「女の子だったら、将来彼氏ができたら、戴智さんは怒りそうじゃないですか?」
「俺はそんな頑固親父にならないぞ」
まだ産まれてもいない子供の話で盛り上がるパパ二人を、ママ二人は笑いながら見守っている。
四人で子育てをする。きっと、いい子に育つ。将来、王永を支える人物になる。親が決めた相手でなくても、そんな跡取りは育つ。それを証明するため、四人の結束は固まった。
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