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第7話

リビングへ向かうと、朝食の用意はすべて済んでいた。 白ご飯と卵焼き、納豆と長ネギの味噌汁、白菜の漬物。典型的な和食が並ぶ食卓を見ると、昨晩のうちに空っぽになっていた胃袋が情けない音を立てる。  広海はキッチンでこちらに背を向けて洗い物をしていたが、望の気配を察したのか振り返ると、柔らかく笑った。 「ありがとな、朝飯作ってくれて」  望は食卓に腰をおろす。 「いいよ。のんちゃん、しんどいだろうから。それに昨日、一昨日はのんちゃんが朝ごはん作ってくれたしね」 「助かる」  洗い物を終えた広海が、エプロンを外し望の向かいに座った。よく見ると、彼の前髪に寝癖がついていた。毛先が外側にくるっと跳ねていて、何だか可愛らしかった。 「今日の朝ごはんは、二日酔いに効く食べ物をネットで調べて作ったんだ」 「マジ?」 「うん。卵と納豆と白菜の漬物……しじみの味噌汁もすごくいいらしいけど、この時間だとまだスーパーが開いてなくてさ、普通の味噌汁になっちゃった」  この時間と言われ壁時計を見ると、針は8時過ぎを指していた。もっと遅い時間だとおもっていたので、望は少し驚いた。 「後、牡蠣も二日酔いの時に食べるといいんだって」  広海は望が牡蠣にトラウマがあり、苦手だと知っている。にも関わらずそんなことを言ってくるので、仰々しく舌打ちをすると、相手はあはは、と愉快げに笑った。 「それより、胃の調子は? ご飯、食べれそう?」  くるりと裏返したかのように、広海はつと真面目な表情になった。望は唇をわずかに広げ、腹をさすりながら答える。 「食えるよ。さっきからずっと、腹ペコだ」  今度はぐぅっと、飢えた獣が唸るような音が響いた。いささか恥ずかしかったが、広海は安心したように表情をゆるめ、「それなら良かった」と微笑んでくれた。  2人はいつものように合掌し、「いただきます」と声を揃えた。同棲を始める前、まだ互いの家を行き来し、一緒に食事をしていた時からの習慣だ。  望は、湯気が立つ味噌汁を啜った。まろやかな塩味が口に広がり、胃にじんわりと沁みていく。思わずほっと息がこぼれ、口元がゆるんだ。広海の作る味噌汁は、すごく美味しい。薄すぎず辛すぎず、程よい味がする。 「――昨日の飲み会はどうだった?」 広海も同じく味噌汁から口をつけ、メガネを曇らせていた。「酔いつぶれるまで飲むくらい、楽しかったの?」 「逆だ逆」  望は昨夜の飲み会で、同僚に絡まれた時のことを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔になった。いい加減プロポーズしろだの、婚約指輪を買えだの、プロポーズしたら事後報告をしろだの散々言われたせいで鬱々とした気分になり、酒でその気分を払拭しようとした結果が、帰宅後のあれだった。 「最悪だった」  ため息混じりにそう言い、卵焼きを箸で切り分け口に運ぶと、ほんのりとした甘みが、舌の上に乗った。

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