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第8話

学生時代から、飲み会が苦手だ。根が暗く、営業社員であるにも関わらず人付き合いがそれほど得意ではない望にとって、人が集まりわいわいガヤガヤと談笑する場は、はっきり言って苦痛だった。けれども社会人である以上、付き合いがあるから仕方なく参加していた。  飲み会も仕事のうちだと割り切ろうとはしているが、仕事なのに金が消えていくのかと考えると辟易する。収入はなくていいから、せめてタダで飲み食いさせてくれれば、少しは気分が乗るのに、と甘ったれたことを考え、飲みにケーションという文化に怒りを覚えてしまう始末だった。 「それはそれは」  広海の苦笑には、「やっぱりね、そうだと思ったよ」というニュアンスが含まれていた。望とは対照的に、広海は人付き合いを好み、人当たりがとても良い。彼いわく「俺は顔が怖いし、格好よくもないし、背が高くて威圧的に見られがちだから、なるべく愛想よくしてる」そうだ。彼は彼で色々と苦労してきたようだ。それを経て今の彼があるのだとすれば、立派なことだと思う。……どうでもいいことだが、望は広海の爬虫類のような顔が、付き合う前からすでに好みだった。 「俺の同僚にさ、中西って奴がいるって話しただろ?」  卵焼きを食べ終えた望は、納豆のパックを開けた。独特のにおいが鼻腔に入り込んでくる。 「最近結婚したって人?」 「そうそう。新婚旅行にグアムに行ったって奴」 「それは初めて知ったよ」 「言ってなかったっけ? まぁいいや。そいつがさ、飲み会の時にやたら絡んできてよ」  望は飲み会での出来事を、広海にすべて話した。ほとんどが愚痴と悪態で構成された望の話を、広海は苦笑をまじえた相槌をうちながら、時折、憐れみの表情を浮かべて聞いてくれた。 「――それで、のんちゃんは八方塞がりになってるわけか」  大変だねぇと、白菜の漬物をぼりぼりと食べながら広海は言った。 「おう。面倒くせぇよ、全く」  望は大きなため息をつき、ご飯の上にこれでもかというくらいかき混ぜたネバネバの納豆をかけた。 「俺が何て言おうが、中西は俺にお節介を焼いてくるんだろうな」 「中西さんなりの優しさだろうね」 「余計なお世話だ。そもそも俺に彼女はいねぇし」 「彼氏はいるんだけどねぇ」  お前がそれを言うかと思ったが、口にしなかった。黙って納豆ご飯を食べる。 「本当のこと、言うわけにもいかないもんね」  広海も納豆のパックを開け、醤油とからしを納豆にかけ、ぐるぐると混ぜ始める。望は口をもぐもぐと動かしながら、かぶりを振った。本当のことなんて、言えるわけがない。もし仮に、交際相手が男だと明かしたとして、同僚たちは一体どんな顔をするだろう。……考えるだけで背筋が凍る。

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