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第10話

「……これは俺の考えだけど」 しばらくの沈思黙考のすえ、広海は口を開いた。 「安心感が生まれるんじゃないかな」 「安心感?」 「うん。恋人と生涯のパートナーになることを法的に認められることで、この人とずっと一緒にいれるんだって安心できる……みたいな」  なるほどなと納得したのと同時に、模範解答みたいだとも思った。 「けど、結婚しなくたって一緒にいることは出来るだろ?」  つくづく、俺って嫌な奴だ。胸のうちで自嘲気味に笑いながらも、疑問を呈してみる。 「結婚しても上手くいかずに別れる奴らはいるし、逆に恋人のままでも、一生添い遂げる奴らだっているんじゃないか?」 「うーん、まぁそうなんだけど」  広海が弱ったと言わんばかりに後頭部を掻く。 「……遺産相続?」  またもや思い付きで発言すると、広海も先ほどと同様、噴き出した。 「なるほどねぇ」 「夢がないなって思ったろ?」 「そんなことないよ。確かにそれもメリットだなって思っただけ」  広海は口元に笑みを浮かべながら、食事を再開した。望も納豆ご飯を食べきった。 「――俺さ」 お茶を一口飲み、ホッと息を吐いたところで、広海が言った。「結婚っていうものを損得勘定で考えたくないのかも」 「まぁ……、そうだろうな」 「それだけじゃないよ、決して」  望は頷き、味噌汁を啜ると、それ以上は何も言わなかった。広海は打算的な人間ではない。だからこそ彼の言葉には強い説得力がある。何も言わなかったのではない、何も言えなかったのだ。 身体、特に胸のあたりがじんと沁みるように熱くなってくる。その熱はやがて全身を支配するように巡り、じわじわと追い込まれていくような感覚にさせられ、落ち着かなかった。……飲み干した味噌汁のせいにするには、あまりにも信憑性も色気がなかった。

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