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第15話
広海がそっと望の左手を取った。強ばった顔を上げれば、彼は思春期の名残であろうニキビ跡の散らばる頬をほんのりと朱色にさせ、同じく表情を固くしていた。胸が大きく切なく高鳴った。
「……指輪、はめてみてもいい?」
広海の問いかけに、望は唇を引き締めた。心臓の音がうるさく、身体中が熱い。ぎこちなく首を縦に振れば、広海は表情を緩めた。
箱から取り出された指輪が、望の左手薬指に通される。指輪のサイズはピッタリだった。広海はいつの間に、自分の指のサイズを測ったのだろうと疑問に思ったが、こちらが訊ねる前に、相手は教えてくれた。
「のんちゃんが寝てる間に、糸を指に巻き付けて測ったんだ」
「……ベタだな」
そんな言葉が、苦笑とともにぽろっと出た。
「ベタだね」
広海ははにかんだ。「でもちゃんと測れてたみたいで良かったよ。これでサイズが違ってたら、今ごろ顔が燃えてたかも」
「何だよそれ」望は噴き出した。
「恥ずかしさのあまり、燃え滓になっちゃうよ」
広海が望の左手に指を絡める。彼の穏やかな体温が手のひらから伝わってくる。
「……のんちゃん、聞いてくれる?」
広海の表情は引き締まり、つられて望も背筋をピンと伸ばした。
「おう」
彼が何を言おうとしているのか、分かっている。朝食の席での彼との会話を振り返る。あの時はもう、ポケットに指輪が入っていたに違いない。胸の辺りがチクリと痛んだ。
「……いつになるか分からないし、実現出来るかも分からないけどさ」
広海はそこで、深呼吸をひとつした。望はじっと彼の言葉を待つ。
「俺と、結婚してほしいんだ」
予想はしていたが、いざ言われると身体中がむずむずとする。顔はより一層火照り、心臓は破裂しそうなくらいに鼓動していた。
「……ヒロ」
「うん」
落ち着こうと、深呼吸をした。吐き出した息は震えていた。
「……お前がさ、そういう風に思ってくれてたことを、前から知ってた」
望は指輪のはめられた左手に視線を落とした。シンプルなデザインのそれは、澄んだ輝きを放っていて、目が眩みそうで、とても綺麗だった。
「でも俺、さっきも言ったけど、結婚とかよく分かんねーんだ」
「うん」
広海が静かに相づちをうつ。
「結婚しなくても、一緒にいることは出来るだろ? それに、日本じゃもちろん男同士で結婚なんてできねーし、だから海外に住んでそういうことするってのも、現実味がないように感じるしよ」
左手に絡む広海の手に力が入ったのを感じながらも、望は言葉を続ける。
「……お前は、何で俺と結婚したいんだ?」
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