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第17話

「まだまだ先の話だけど」  広海は望の左手から、自らの手をほどいた。 「俺が歳をとってハゲてきても、バレンタインのプレゼントや、バースデイ・カードやワインを贈ってくれる?」 「……知ってたのか」  驚きと面映ゆさが混ざり合った奇妙な感情が、望の胸や表層にあふれた。2年前のイギリス旅行で、広海の口から同性婚という言葉が出た際、返事に困ったがために歌ったビートルズの曲だ。 「ううん、あの時は知らない歌だったよ」  広海が懐かしげに微笑んだ。 「でもすごく気になって……あのタイミングでのんちゃんが歌ったのには何か意味があるんじゃないかって思って、探してみたんだ」 「探さなくて良かったのに」 「探したって言ってもすぐに見つかったけどね。やっぱりビートルズかって感じだった」 「どうせビートルズだよ」  ビートルズマニアの望は苦笑した。 「いい曲だよね」 「そりゃ、ビートルズだからな」  ビートルズフリークの望は胸を張った。 「俺たちにぴったりだなって思ったよ」 そう言って、広海は望の背中に腕を回した。「……ずっと君のそばにいよう」 「……合言葉か」  再び歌詞を引用され、これまで自分たちも似たようなことを何百回と伝え合ってきたなと思い、照れ臭くなった。 「のんちゃんが俺に抱いてる気持ちだよ」 「……まぁな」  望は素直に答え、抱きしめ返す。二人の距離が、視線が、一気に縮まる。 「返事、聞かせてよ」  広海の吐息が唇にかかり、身体が芯から震えた瞬間、唇が重なった。望はやんわりと瞑目し、広海からのキスを受け入れる。……タバコ臭くないだろうか、無精髭が生えてるけどチクチクしてないだろうか、などと余計なことを考えているうちに、口角がゆるりと上がっていた。  唇を離し、ゆっくりとまぶたをあげ、広海の黒い瞳を見つめる。自信たっぷりなその眼差しはすべてを見透かしているようで憎らしかったけれど、世界中の誰のものよりも格好よくて、頼りになって、愛おしかった。  望は広海の頭を抱きかかえ、彼の耳元に唇を寄せた。そのまま囁き声で返事をすれば、広海は「やったぁ」とたいそう喜び、望もろともソファに沈んだ。

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