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第5話 めんどくさい。

「そっらーー!」  雪兎と空が話していると、元気な声が廊下から聞こえてくる。足音がして、勢いよく扉が開いた。 「結弦うるせー!」  結弦と呼ばれた人は、教室に入ってくるなり空に頭を叩かれる。この二人の痴話喧嘩はいつものこと。藤堂結弦は口を尖らせながら叩かれたところをさすっていた。  何かを思い出したのか、結弦は外に向かって手招きをする。ひょこりと顔を出したのは、昨夜ベットで共に果てた志希だった。 「暁……………さん!」  志希は慌ててさんをつける。ようやく会えた志希。雪兎の表情はパッと明るくなったが、すぐにムスッとした顔になった。  志希のさん付けが気に入らなかったのだ。 「さん付けいらない。名前長くなる。めんどくさい」 「えっ」 「志希って呼ぶから、雪兎って呼んで」 「は、はい……………」 「敬語もめんどくさい」 「う、うっす」  一方的な会話。そっけない態度。ベットの上で見せた姿とは大違いだ。志希はなんだか不安に思えてきた。  そこで雪兎のところまで連れてきてくれた結弦にこっそり聞く。 「なあ、あかつ……………雪兎っていつものあんな感じなのか?」 「基本的にはそうかな。でも今日はいつもよりやる気があるね」 「……………あれで?」 「そう、あれで」  ちらりと雪兎のほうを見ると、目があった。彼は目を大きくしたあと、すぐに元の表情に戻る。相変わらず眠たそうな目をしている。  けど耳がほんのり紅かったのは、気のせいだろうか。そのまま雪兎はあくびをする。目が段々と閉じていった。その横で結弦はカバンからジュースを取り出し、飲み始める。 「おい、そこで寝るな」 「じゃあ空起こしてよ。移動するのヤダ」 「まためんどくさいの?なら寝ないように面白い話しでもしたら?」  結弦の提案にのそっと目をあける雪兎。そしてしばらく志希の見つめていたが、良さそうな話題を思いついたらしい。  雪兎はしれっとした顔で爆弾を投下した。 「空と結弦はどこまでいったの?」 「「……………っ!?」」  二人は同時に咳き込む。結弦はジュースが鼻に入ったみたいで涙目だ。空は顔を真っ赤にさせている。 「ちょっと雪兎ちゃん!?純粋な志希前になんてこと言うのさ!」  結弦はショートしかけている志希を揺さぶりながら叫ぶ。今にも耳から煙が出そうだ。  雪兎はさらに爆弾2発目も落した。 「志希はけっこうピュアだけどガッツリタイプだったぞ」 「「……………は!?」」 「雪兎、志希に、て、手ぇ出したのか?」 「可愛い志希!!雪兎に何されたの!?」 「僕を悪者みたいに言わないでよ」  さらに激しく志希を揺さぶる結弦。空は空で口をパクパクさせている。まるで瀕死の金魚だ。  タイミングよくチャイムがなる。志希と結弦は慌てて自分の教室に戻っていった。雪兎はさっそく机に伏せて寝始める。目を閉じて浮かぶのは、顔を真っ赤にして喘ぐ志希の姿だった。

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