8 / 19
第8話 気まずい。
「んっ……………ねぇ志希。昨日のとこ行こ」
「いいよ」
「流石に親にバレるから、今日は8時くらいまでね」
「……………今何時」
「まだ4時」
"昨日のとこ"とはもちろんホテルのこと。二人はもう一度軽くキスを交わした。これからするんだ、という意識をしただけで頬が赤くなる志希。
反応が面白かったのか、雪兎は耳元で吐息を交えながら囁いた。
「ねぇ……………もしかして志希って、童貞?」
「どう……………て、い?」
一瞬何のことかわからなかったみたいだ。自分で繰り返すように口にしてから、真っ赤になってそっぽを向く。そんな彼を可愛いと思った。
「童貞なんだ」
「わ、悪かったな!」
「別に悪いだなんて言ってないよ?ただ、童貞なら譲ってあげてもいいかなっと思って」
「何を?」
「だから、筆下ろししてあげるってこと」
小悪魔のように微笑んだ雪兎。志希はさらに頬に熱が集まっていくのを感じた。さすっとアソコを触られ、ピクッと肩を揺らす志希。続きは後で、というような行動だった。
でも、実際は違う。志希は鈍感だから気づかなかったが、雪兎は"筆下ろししてあげる"といった。"処女をあげる"ではなかったのだ。意地悪な笑みも、焦らすような行動もその事実を隠すため。後ろめたさを通り越して、罪悪感すら感じた。
「あれ、雪兎と志希じゃん」
タイミングよく現れたのは、空と並んで歩く結弦だった。雪兎はこのとき心底思った。普段うるさい奴だと思ってごめん、最高にナイスだよ。
雨に打たれる二人を見て大笑いしているのは許さないけど。
「なんで傘持ってるのに濡れてるの」
「この年になって雨遊び?」
「え、空、雨遊びって何?」
「雨で遊ぶこと。そう言わん?」
「言わない言わない!」
ぽかんとする雪兎と志希を置いての夫婦の電光石火の会話。本当に仲がいいんだな、なんて他人事のように思っていた。
「俺らこっちから帰るけど」
「あ、僕達も一緒の方向」
「空ーどうせなら俺たちも濡れてく?」
「なんでそうなるんだよ」
なんて笑いながら四人で歩く。ちなみにホテルまでは徒歩五分ほどだ。それまで何故か四人は同じ道を歩いていた。
そしていつの間にかホテルについてしまう。
「……………ねえ」
「……………」
「ですよね」
「……………?」
男四人がラブホの前で立ち往生。志希だけが今の状況を理解できていないようだった。
仲のいい友達が、今から利用しようとしているホテルでやるのだ。しかも男同士。これ以上気まずいことはないかもしれない。
ともだちにシェアしよう!