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第8話 気まずい。

「んっ……………ねぇ志希。昨日のとこ行こ」 「いいよ」 「流石に親にバレるから、今日は8時くらいまでね」 「……………今何時」 「まだ4時」  "昨日のとこ"とはもちろんホテルのこと。二人はもう一度軽くキスを交わした。これからするんだ、という意識をしただけで頬が赤くなる志希。  反応が面白かったのか、雪兎は耳元で吐息を交えながら囁いた。 「ねぇ……………もしかして志希って、童貞?」 「どう……………て、い?」  一瞬何のことかわからなかったみたいだ。自分で繰り返すように口にしてから、真っ赤になってそっぽを向く。そんな彼を可愛いと思った。 「童貞なんだ」 「わ、悪かったな!」 「別に悪いだなんて言ってないよ?ただ、童貞なら譲ってあげてもいいかなっと思って」 「何を?」 「だから、筆下ろししてあげるってこと」  小悪魔のように微笑んだ雪兎。志希はさらに頬に熱が集まっていくのを感じた。さすっとアソコを触られ、ピクッと肩を揺らす志希。続きは後で、というような行動だった。  でも、実際は違う。志希は鈍感だから気づかなかったが、雪兎は"筆下ろししてあげる"といった。"処女をあげる"ではなかったのだ。意地悪な笑みも、焦らすような行動もその事実を隠すため。後ろめたさを通り越して、罪悪感すら感じた。 「あれ、雪兎と志希じゃん」  タイミングよく現れたのは、空と並んで歩く結弦だった。雪兎はこのとき心底思った。普段うるさい奴だと思ってごめん、最高にナイスだよ。  雨に打たれる二人を見て大笑いしているのは許さないけど。 「なんで傘持ってるのに濡れてるの」 「この年になって雨遊び?」 「え、空、雨遊びって何?」 「雨で遊ぶこと。そう言わん?」 「言わない言わない!」  ぽかんとする雪兎と志希を置いての夫婦の電光石火の会話。本当に仲がいいんだな、なんて他人事のように思っていた。 「俺らこっちから帰るけど」 「あ、僕達も一緒の方向」 「空ーどうせなら俺たちも濡れてく?」 「なんでそうなるんだよ」  なんて笑いながら四人で歩く。ちなみにホテルまでは徒歩五分ほどだ。それまで何故か四人は同じ道を歩いていた。  そしていつの間にかホテルについてしまう。 「……………ねえ」 「……………」 「ですよね」 「……………?」  男四人がラブホの前で立ち往生。志希だけが今の状況を理解できていないようだった。  仲のいい友達が、今から利用しようとしているホテルでやるのだ。しかも男同士。これ以上気まずいことはないかもしれない。

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