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第54話

俺のカップに入ってる紅茶が飲みたい、ですと? ちょっとお行儀悪い気もするが本人の希望なら仕方無いよね。幸いまだ口をつけてなかったし。俺のコーヒーより隊長さんの紅茶の方が美味しいもんなぁ……。 「じゃあ、どうぞ」 「ん!」 手に持ったカップを書記さまの口元へと近付ければ、本当に嬉しそうな笑顔。 そしてそのままこくこくと美味しそうに紅茶を飲み始め――。 うおおっ!? 高速で左右に揺れる尻尾の幻影が見えるだと? だ、だがしかし。 何とか心の動揺を抑えた俺は、書記さまが飲みやすいようにカップの角度を調整してあげた。 (くうう、メッチャ頭撫でたいっ) それにしても、よっぽど喉が渇いてたのかな。 すぐ隣にいるのにくっつかれないだなんて珍しいというか初めてかも。 いや、縛られてるから動けないだけか。 伏し目がちで真面目に紅茶を飲み続けるワンコ。 じゃなくて書記さま。 こんなの滅多に無い機会だし、俺も(書記さまが飲み終わるまで)動けないんだからと、目の前の美形をじっくり眺めてみる。 んー。何て言うかこの人、髪や肌もそうだけど全体的に色素が薄い感じがするよね。 綺麗ではかなくて、触れると壊れそうな貴重な存在……みたいな。 実際は馬鹿力だし足速いし「待て」が出来ないワンコだけども。 あ、まつげ長い。 それから、こうして改めて見てもやっぱ綺麗な瞳だよなぁ。 光の加減で微妙に藍から深い緑っぽい色に変化して見えるのか…………。 「わんわん、俺の目が好き、なの?」 「え」 伏し目だった筈の書記さまがいつの間にか顔を上げ、珍しくはにかんだような笑顔を浮かべていた。 当然ながら超至近距離でそれを目の当たりにする俺。 うああ、ごめんなさい!? 何故かこっちまで恥ずかしくなるからその顔止めてください。 ひいぃぃいッ やばい、美形の威力って凄いなホントに。 というかもしかして俺今、みとれてた? しかも多分、書記さまが話しかけるまで見つめ合ってた形になるんじゃ。 うわー。 うわー。 何それ恥ずかし過ぎる! 「あ、あの。紅茶もういいんですか」 「うん。わんわん、飲んで?」 「は?」 .

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