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第61話

書記さまの服を掴み、赤い顔を見られないように埋めて隠す。 何だこれ恥ずかしい。 恥ずかし過ぎて目を合わせられない。 どうしたんだろ俺。 さっきの、書記さまの言葉と優しい笑顔が頭から離れない。 ううん、それだけじゃない。 先日、逃亡した俺が森で迷子になった時も。 真っ暗な中、汗をかくほど必死に走って助けに来てくれた書記さま。 あの時、俺の頭や背中を撫でてくれた手と、あやすような声が――――今日の笑顔と同じに優しくて、ホッとして、すごく嬉しかったことを思い出したんだ。 それで、あのね。 書記さまの笑顔に見惚れたといいますか。 何か、いいなって。 見てると胸がキュンとしてホワホワするような感じが心地良くて、ずーっと笑ってて欲しいなあ、なんて。 書記さまに「顔が赤い」と教えられた途端、そんな自分の考えに気付くとか……。 えっ、何これ。 恋? いやいやいやいや、落ち着け自分。 違うから。きっと絶対に違うから。 書記さまは男だし、俺も男。 キュンとしてホワホワしたのは心配してくれたのが分かって感動したんだよ。 あとはえーと、そう! 書記さまが美形過ぎるのが悪いんだよね? いきなり近くでこんな人間離れした美形の笑顔を見たら、誰だってドキドキするでしょ。 心拍数があがって興奮すると顔も赤くなるだろうし。 綺麗なものを見続けたいと思うのは普通。常識。俺おかしくない! ……実は超面食いとかだったら嫌だな。 そんなことをぐるぐる考えていた俺は、書記さまが 「わんわん、やっぱり具合悪い? 俺が仕事終わるの遅かったから、待つのすごく疲れた。全部俺のせい。わんわんごめんなさい。俺、急いでお家帰る……もうすぐ!」 と呟いたことにも気付かなかった。 数分後。 何故か書記さまの寮部屋に到着し、ベッドの上に優しくおろされる俺がいたり。 自分のパジャマに着替えさせるため、無理やり俺の服を脱がそうとする書記さまとの熱い攻防戦が待っている、だなんて――。 お、お願いします。 頼むから今すぐ誰か助けに来てぇぇえ! 【ワンコの秘密/END】

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