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第64話

だからあまり恨めしそうな目でこちらを見ないでくださいね会計さま。 思わず目潰しをかましたくなりますから。 おっといけない、疲労と苛立ちのせいでつい本音が。  *** 書記さまに関することで、わんわん君がまだ知らないもの。 秘密その一、片言で話す理由。 たどたどしい喋り方と、誰が見ても明らかに白人の血が混じっていると分かる容貌から未だに流暢な日本語を話せない(あまり理解することが出来ない)ハーフの帰国子女、だと思われている書記さま。 ……四歳までは外国で暮らしていたそうですしハーフなのも事実ですが。 日本語は十分理解しています。 問題があるのは知識や能力ではなく、身体。 具体的に言うと喉にあります。 子供の頃に患った病気が原因で発声の際、少しひきつるような痛みがあるのだとか。 けれど負担をかけ過ぎなければ問題無い程度で、要するに 「痛いの嫌い」 な弱虫書記さまが痛みを怖がって話したがらない、それだけのことです。 わんわん君に会う前までは口を開いても「ん」とか「ヤ(嫌)」の一言程度で、声を聞くこと自体まれでしたし。 今じゃ毎日「わんわんわんわん」うるさ過ぎて嘘みたいですよね。 人形のように綺麗で大人しく、滅多に話すことのない神秘的な書記さま。 そんな幻想を抱いていた生徒たちもすっかり目が覚め、代わりに謎の奇声 「ワンコ萌えぇぇ!」 をあげる変な人達が増えました。 今のところ危害を加えられる心配もありませんし音量さえ気をつけてもらえれば、まあ別に構いませんが。 書記さまに関すること 秘密その二、例の犬との別れ。 幼い頃は特に病気がちだった書記さま。 その為、家族やお側に仕える者たちは皆、極力わがままを聞き入れて甘やかすばかり。 では、どうしてノラ犬とはいえ書記さまの欲しがるものを取り上げたのか。 警護の者の目をかいくぐり外出した先の公園から、汚れたノラ犬を拾って来た書記さま。 自室でこっそり飼い始めたものの、何故かご自身は体調を崩され……周囲が異変に気付く頃には高熱で意識朦朧となっていました。 .

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