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第66話
ただ必死に、あの子(雑種のノラ犬)は悪くない、わんわんのせいじゃない、だからわんわんに酷いことしないで、と謝り続ける姿に……途中から僕も一緒に泣き出してしまって……。
コホン、いえ、それはともかく。
居場所を知られた元ノラ犬は、すぐに別の家が保護と世話を任されたそうです。
行き先は僕も分かりません。
書記さまは二度と捜そうとはしませんでした。
代わりに年に一度だけ届く、「元気です」の文字が添えられた消印の無い手紙(あの子の甘えるような写真入り)を、僕と一緒に何度も眺めて過ごしました。
昨年……あの子が老衰で亡くなったと知らされるまで、それは何年も続きました。
胸に穴が空いたように。
そんな言葉がピッタリ当てはまる、元気の無い書記さま。
あの子が亡くなってからは無口さも余計に酷くなり、常に眠そうで何事へも関心を持たずボーッと過ごされる日々。
周囲も自身のことも全てどうでも良い。
生徒会の仕事や学業・本家関連の行事など、やれと言われたことはするけれどただそれだけ。
本当に生きた人形のよう。
学園でお側に仕えながら、半ば諦めの思いで見守っていたその時――。
わんわん君が現れたのです。
それからどうなったかは、まあご覧の有り様ですね。
無駄に元気な書記さまの姿を見て良かったと安堵しつつ、反面、あの無口で手間のかからなかった頃に戻ってくれれば、と思う回数も増えました。
元々少しわがままではありましたが、最近のわがままっぷりときたら本当にもう!
いや、愚痴はよしましょう。長くなってしまいますから絶対に。
ともかくそんなこんなを、わんわん君に話そうと思ったのですが。
……ふふっ、何だろうこの感じ。
改めて二人きりになって、誰にも邪魔されず話をする。それだけで新しいわんわん君の色々な姿・表情・反応が見えてくる。
前から面白いほど素直で単純で流されやすいとは思っていたけれど。
あの子(雑種のノラ犬)の生まれ変わりだなんて非現実的な話は勿論、信じていなかった。
その筈なのに。
近くで見て触れて懐かしさを覚える。
慰めるように抱きついてきた温もりに、喜びが込み上げる。
――感情の高まりは一瞬で我が主に奪われてしまいましたが。
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