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第67話
やれやれ、本当に独占欲の強い人ですね。あまり縛り付けてはわんわん君に嫌われますよ?
と普段なら呆れる程度なのに何故でしょう、わんわん君を抱きしめる書記さまの姿にムッとします。
痛がるわんわん君を救い、書記さまを睨み付けながらふと自分の行為に疑問を感じました。
僕は何を怒っているのだろう。
最近は常に怒っている気もしますが、それとは少し違うような。
迷いで反応が遅れた隙に再び捕まるわんわん君。
書記さまが満足そうに抱きしめ、頬をすり寄せ甘噛みとキスを繰り返す。
(ムカッ)
その後、気絶したわんわん君を助け出し書記さまを縛り上げた訳ですが。
甘えるようにわんわん君の紅茶をせがむ書記さま。戸惑いながらもカップを傾け、手ずから飲ませてあげるわんわん君。しかもほんのり頬が赤いような。
(ムカムカッ)
書記さまが口をつけた飲みかけ(飲み残し)のそれを、わんわん君の手ごと掴んで飲み干してやれば少し不快感が薄れます。
あ、いえ、やっぱり怒りは消えません。
一体これは何なのだろうか。
やがて、わんわん君の食事に関し騒ぎ出す役員の皆さま。
僕の発言をきっかけに、ぜひわんわん君のために美味しいものを用意しようと、それぞれが動き始めます。
と同時に素早い反応を示すわんわん君。さすが元・雑種のノラ犬ですね。
しかし驚きよりも、様子のおかしいわんわん君が気になります。
もしや待ちくたびれてしまったのではないか、今すぐ寮へ帰らせてあげた方が良いだろうか。
そう考え、ここでようやく引っ越しのネタばらしとなったのですが。
書記さまをはじめ皆さまが好き勝手にわんわん君との新生活(妄想)を語る姿に、またも怒りと不快感が込み上げます。
一緒にお風呂に入るだの添い寝するだの……僕だって昔、あの子をお風呂で全身モコモコの泡まみれにしてはピカピカに洗ってあげたし、毎日散歩してご飯をあげて、たまに一緒のタオルにくるまってお昼寝したり大好きなボール遊び・ブラッシングやマッサージもやって……。
あの子とは違う筈なのに、皆さまがわんわん君に同様の行為をする場面を想像し、ますます苛々が募ります。
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