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第69話 引っ越しわんわん(前編)/新しいお家です。
「うぅ、ん」
あったかい。
ふふ、ぬくぬくー。
でもまだ眠い、気持ちい。
すりすり。
あ、トクトクって音が聞こえる。
時計、じゃないよね。何だっけ。
「んー……?」
眠い目を開くと、超至近距離に見慣れない温い壁。
そのままゆっくり視線を上げれば、綺麗な書記さまの顔がありました。えっ。
「あれ、何これ、夢?」
「……ふあぁ。わんわん、おはよ……でも、今日お休みだか、ら。も少し……寝よ…………」
ゆゆゆ、夢じゃなかったぁぁあ!?
し、しかもこれは。
俺を抱き枕にする寝ぼけた書記さまがちょっと可愛い。とか思ってる場合じゃないや!
待て待て待って、落ち着こう俺。
よし、とりあえず書記さまの腕の中から脱出しよう。と頑張ってみるものの、余計にギュッと抱き込まれてしまい、身動きとれないんですが。
くっそ駄目だ、下手したら俺このまま締め殺される。
だったら今すぐ書記さまを起こせば――いや、何となく更に寝ぼけて目が覚めるより先に締め上げられそうな予感がする。
え、ということは誰か(真っ先に書記さまの行方不明に気付くだろう隊長さんあたり)が助けに来てくれるのを、ひたすら大人しく待つしかな……。
というか何でこんな状況になったの!?
思い出せ自分!
***
えーと確か……何か俺、ひどく疲れて頭ぱーんして感情の抑えやらが変になって。そこに隊長さんからいきなり寮部屋の引っ越しを告げられて。
さらには皆さまの妄想大会に笑うしかないや、と思った時に拉致されたんだよな。
そんで書記さまの寮部屋に連れ込まれベッドの上に優しくおろされた後、無理やり俺の服を脱がそうとしてきたからギャーッとなって。
いやあれは凄い攻防戦だった。
単に書記さまが俺を自分のパジャマに着替えさせようとしただけらしいけど。意味も分からずベッドの上で、自分と同じ『男』にマウントポジション取られて裸に剥かれそうになるのは怖いよっ。
知ってる相手だからまだしも、もし知らない人に同じことされたら、その後何されるか分かんないし最悪殴られたり殺されたりするんじゃないかって恐怖のあまりパニック起こすぞきっと。
まあ、書記さまとの場合は脱がされるのが恥ずかしくて必死に抵抗していた訳ですが。
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