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第86話

入浴中も皆さまはブレないですね。 犬を入浴させる際の適温が三十度台らしくて、副会長さまがずっとハラハラしてます。 俺、熱い方が好きなんで大丈夫っスよー。 それに温水プールならともかく、あんまし温(ぬる)いお風呂は逆に嫌かな。お腹壊したり風邪ひきそう。 庶務さまは常に書記さま大好き人間ですよね。まるで恋する乙女――。 うん? 急に心臓がチクッとしたけど何だろう。心臓系の病気の前触れだったりして。最近たまに不整脈っぽいのもあるしなぁ。 いやいや、きっと運動不足じゃね? ほら、昨日貰ったお菓子を調子に乗って食べ過ぎたから。……あとで少し走ってこよう。 「こら、泳ぐな。汚ねぇ尻見えてんぞ、この糞チャラ男」 「ぶびぇぶぐふぐふぶぶぶ」 「だから潜るな!」 楽しそうだなぁ会計さまと会長さま。 会計さまが若干はしゃぎ過ぎな気もするけど放っとこ。俺も他に人がいなかったら泳ぎたくなると思うし。これだけ広いお風呂だと普通なるよね、マナー悪いけど。そういや昔、近所の銭湯で泳いだらメチャクチャ怒られたなぁ。 と、俺の真正面のお湯の中から泡がぷくぷく浮き上がって―― 「っひい!?」 突然何かが太ももに触れた。 驚いて立ち上がろうとしたら。 「うわっ!?」 「わんわん君ッ」「野良(のら)!」「あ」 何かに足を引っかけて頭からお湯の中にすっ転んだ。 バッシャンと大きな水しぶきが上がり、叫び声が響く。 は、鼻にお湯が入って痛、いたたた、ツーンてするうう。げほっけほっ……ん、あれ? だけどそれ以外あんま痛くないや。擦りむいたりぶつけたり、は奇跡的にしなかったのかな。 それに、風呂底が妙に軟らかい。いや、ゴツゴツはしてるけど何だろこれ。こんなの最初からあったっけ。 「わんわん君、血が……!」 「えっ」 慌ててお湯の中から上半身を起こす。 周りを見れば、確かに赤いものが浮いていた。というか下から湧いてるような。ん? 「うひゃあきゃっ!?」 「わんわん君、こっちへ!」 「――おい、何やってる糞チャラ男」 「ぶぼっぐぇぶ、げほっぐほっわ、わん、わん、のぉ……ぶふっぐぼふぎあっゴボボボボ」 何故か俺の下敷きになってお湯の底に倒れていた会計さま。 .

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