86 / 89
第86話
入浴中も皆さまはブレないですね。
犬を入浴させる際の適温が三十度台らしくて、副会長さまがずっとハラハラしてます。
俺、熱い方が好きなんで大丈夫っスよー。
それに温水プールならともかく、あんまし温(ぬる)いお風呂は逆に嫌かな。お腹壊したり風邪ひきそう。
庶務さまは常に書記さま大好き人間ですよね。まるで恋する乙女――。
うん?
急に心臓がチクッとしたけど何だろう。心臓系の病気の前触れだったりして。最近たまに不整脈っぽいのもあるしなぁ。
いやいや、きっと運動不足じゃね?
ほら、昨日貰ったお菓子を調子に乗って食べ過ぎたから。……あとで少し走ってこよう。
「こら、泳ぐな。汚ねぇ尻見えてんぞ、この糞チャラ男」
「ぶびぇぶぐふぐふぶぶぶ」
「だから潜るな!」
楽しそうだなぁ会計さまと会長さま。
会計さまが若干はしゃぎ過ぎな気もするけど放っとこ。俺も他に人がいなかったら泳ぎたくなると思うし。これだけ広いお風呂だと普通なるよね、マナー悪いけど。そういや昔、近所の銭湯で泳いだらメチャクチャ怒られたなぁ。
と、俺の真正面のお湯の中から泡がぷくぷく浮き上がって――
「っひい!?」
突然何かが太ももに触れた。
驚いて立ち上がろうとしたら。
「うわっ!?」
「わんわん君ッ」「野良(のら)!」「あ」
何かに足を引っかけて頭からお湯の中にすっ転んだ。
バッシャンと大きな水しぶきが上がり、叫び声が響く。
は、鼻にお湯が入って痛、いたたた、ツーンてするうう。げほっけほっ……ん、あれ?
だけどそれ以外あんま痛くないや。擦りむいたりぶつけたり、は奇跡的にしなかったのかな。
それに、風呂底が妙に軟らかい。いや、ゴツゴツはしてるけど何だろこれ。こんなの最初からあったっけ。
「わんわん君、血が……!」
「えっ」
慌ててお湯の中から上半身を起こす。
周りを見れば、確かに赤いものが浮いていた。というか下から湧いてるような。ん?
「うひゃあきゃっ!?」
「わんわん君、こっちへ!」
「――おい、何やってる糞チャラ男」
「ぶぼっぐぇぶ、げほっぐほっわ、わん、わん、のぉ……ぶふっぐぼふぎあっゴボボボボ」
何故か俺の下敷きになってお湯の底に倒れていた会計さま。
.
ともだちにシェアしよう!