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Full of love
クリスマスツリーを買ったのは、蓮と再会して最初のクリスマスを控えた、12月の半ばだった。
その数日前のことだ。街中に流れるクリスマスソングを聞きながら、蓮と歩いていた。
「あんまり良い思い出ないんですよ、クリスマス。」蓮が言った。「いや、良い思い出も悪い思い出もないのかな。何もなかった。そういう時、親父はあっちの家族と過ごすし、おふくろは店のパーティーで帰ってこないし、僕は一人で家にいた。ああ、その翌日はもっとキツかったかな。学校のみんなはサンタに何もらったとか言い合ってて。」
蓮の実父は議員で、その愛人だった蓮の母親とは別に本妻がいた。
「プレゼントもなし?」
「それはありましたよ。1万とか5万とかホイッと渡されて、お父さんからよ、好きなもの買いなさいって、なんて言われてね。それをプレゼントって言っていいなら、ありました。」
「そうか。」
「やだなあ、そんな深刻な顔しないでよ。別にトラウマにもなってません。この時期になるとちょっと思い出すだけです。中学とか高校になると、周りだってサンタだの家族でケーキ食べただの言わなくなるし、友達と騒いでそれなりに楽しく過ごしましたよ。」
「友達と?」
「ん?」
「その……恋人と過ごしたり、なんてのは。」
蓮は吹き出した。「気になる?」
「気になるね。」
「じゃあ、先生から教えてください。」
今では蓮だって「先生」なのに、未だにそんな呼び方をする。
俺の、今までのクリスマス。小さい頃は、蓮と違って家族と過ごした。学生の頃は、友達と騒いだこともあれば、恋人と過ごしたこともある。1人淋しく過ごした時ももちろんある。就職してからはどうだろう。ここ数年は願書に添える内申書を書いてばかりいる気がするが、一応、交際相手がいた時もあるにはあって、その人と過ごすこともなかったわけでもない。
「うん、まあ、大事なのは、これからのことだな。」と俺が言った。
「ずるい。」と蓮が笑った。
それ以上の追及をかわすため、俺は言った。「そうだ、プレゼントは何がいい?」
「なんでもいい。と言うか、一緒にいられたら、それが最高のプレゼントかなあ。」
それが人通りの多い商店街でなかったら、全力で抱き締めているところだったと思う。
その頃はまだ別々に暮らしていたから、当日は蓮がうちのボロアパートに来ることになっていた。畳敷きの色気のない部屋はクリスマスにはあまりにも不釣り合いだったが、そこに更に不釣り合いな大きなツリーを設置した。
「うわ、デカッ。」部屋に入るなり、蓮は出会った頃のような口調で言い、目を丸くした。その顔が見たくて、用意したツリー。
「てっぺんの星は蓮がつけて。」
「え、いいの?」
ベツレヘムの星を蓮が取り付けたところで、電飾のスイッチを入れた。キラキラと点滅するツリー。部屋の明かりを暗くすれば、畳敷きも気にならない。
「来年からは組み立ても飾り付けも一緒にやってくれよな。1人でやるの、結構大変だった。」と俺は言った。
「……うん。」返事にしては長い間を空けてから、短く答えた蓮。
「これからは、毎年やるから。」俺は念押しするように言った。「引っ越し先は、このツリーも小さく見えるところにしような。」
「うん……うん。」
何度も頷く蓮に、俺は言った。
メリー・クリスマス。
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