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第3話

「王妃様――貴方は薄々、我が何を言いたいのか分かっておられるんではないんか?ここ、祝寿殿は王宮から隔離されているとはいえ――色々な噂が禍厄天呪様に救いを求める者達の口から囁かれているんや……それこそ、恋愛沙汰に至るまで勝手に奴等が囁いてくるんや……ほんに、面白う見物でございますや……そうですね、例えば――」 ――ぐいっ……!! と、急に魔千寿と呼ばれた男が私の腕を引き寄せてきたせいで、彼の腕の中へ飛び込みざるを得ない状況になってしまう。そして、にやり――と口元を歪めた魔千寿は一瞬何が起こったのか理解出来ずに呆気ない表情を浮かべていた私の耳元へと唇を寄せ――、 「――王である燗喩様の愛人候補として……王妃様の御親友でいらっしゃる薊様があがっている事、そして王様も……あながち満更でもいらっしゃらない事とか――。もしくは、薊様の側にいらっしゃる何処の馬の骨とも知らぬ童が――かつて薊様と生き別れになった彼の姉であられる前王妃・葉狐様の目にとまり期待されているゆえに王花様や尹儒様を押し退ける勢いで王位継承者候補としてあがった事――などですや」 「……っ…………!?」 私は魔千寿から抱き締められるような形で引き寄せられ、その言葉を聞いても何も言う事が出来ずにただ呆然と彼の愉快そうに笑む顔を見つめるしかなかった。 魔千寿の言葉は――全て王宮内に流れて私を悩ませている噂そのものであり、その真意は別にしても王宮を賑わせているのは事実だからだ。 「――そこで、夫を親友に奪われそうになっている哀れな王妃様に願いがあるんやけどな……」 「ね、願い……!?」 「ええ、ええ……我からのささやかなる願いや……尹儒様の世話人が一人お辞めになったそうやし、ここでひとつ我を新任の世話人にさせてもらっては如何やな?」 「なっ……何を言っているのですっ……そんな事、術師である貴方が……貴方……が……できる……わけがっ……」 そこで、突然……部屋の中に甘い甘い花の香りが漂ってきた。先程まで、甘い花の香りなどしなかった筈なのに――。耐え難い程に濃厚な花の香りが鼻腔を突き抜け、思わず力が抜けてしまい、私は魔千寿の体に自ら凭れかかってしまうように倒れてしまう。 「……母上、母上も――魔千寿と仲が宜しいのですね……さあ、彼を……僕の世話人として下さいませ……母上、よろしいですよね?魔千寿は――僕の親友になるとおっしゃってくれたのです……そんな彼の望みを断る訳がないですよね……母上?」 「……は、はい……尹儒……あなたの……ため……ならば……」 意識が朦朧とし、微かに聞こえてきた我が子の問いかけの言葉を耳にすると――にこり、と穏やかに笑む顔を私の方へと向けている魔千寿にその身を預けたまま、甘い甘い花の香りに酔いしれたかのように、頭の中で考える前に口を開いて答えてしまうのだった。

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