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第4話
◆ ◆ ◆ ◆
【妃宮】――。
此処には、前王妃であられる葉狐様がいらっしゃる。今、尹儒と私は本来であれば厳密に守られるべき契約事を許され――特別に【妃宮】へと招かれていた。
それは、【逆ノ目郭】から実の弟である薊を救い出した私達に対する前王妃の葉狐様からの恩恵であり、それ故に葉狐様の御前で失礼があってはならない。それ故に、私は緊張してしまって昨夜は寝付けずにいたのだが――それとは打って代わって隣で私の手をぎゅうっと握る尹儒は何処となく楽しげだ。
もっとも尹儒が楽しげなのは王宮とは違い――廊下を騒々しく駆け回るのが全て彩りの花のように綺麗な色の衣装を身に付けている女人の様子を見れるからなのかもしれないが――私はこれから葉狐様に会わなければならないというその事実だけで憂鬱な気分に陥ってしまうのだ。
(葉狐様はうわべでは私の事を生き別れの薊を救ってくれた恩人だ、讃えるべきだと仰ってくれているが――その一方で私の母と私の事を――恥ずべき謀反人だ、裏切り者の血が混じった醜き子だ――などと好き勝手に仰っているとも風の噂で聞いた……もしもそれが事実ならば尹儒の事も本心では快く思っていないはず――本当に彼女に会っても良いのだろうか……)
そんな事を心の中で悶々と思うだけで――きり、きりと胃が痛む。そして何とか痛む胃を抑えながらも――思わず前傾姿勢をとってしまう。
――がっ……!!
と、その拍子に石に躓き――危うく転びそうになってしまうが――その途端、隣にいる尹儒が慌てて私の体を支えてくれるのだった。
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