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第6話
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「失礼致します――葉狐様……御客様をお連れ致しました」
「……お入りなさい」
僕と尹儒を案内してくれた可憐な見た目の華子な少女が、ふいに襖の外側から部屋の中にいる葉狐様へと声をかける。すると、部屋の中から穏やかな返答が聞こえてきたため華子の少女は僅かに緊張している素振りを見せつつも、そっ――と襖を開けた。
――ばしっ………!!
と、その瞬間――可憐な華子の少女の顔を目掛けて何かが部屋の中から飛んできた。あっという間の出来事だったため、華子の少女は避けられず――思いっきり額に当たってしまったのだ。
「おやおや……手が滑ってしまいましたわ――でも、まあ……目上の人物の部屋へ訪れた際は襖を二、三度軽く叩いて了承を得てから入るという王宮のしきたりすら知らない田舎娘には――よい躾となったのではないんか?さあさあ、田舎娘――お役後免故に……今すぐ故郷へ帰りなさいな。それと――魄と尹儒はこちらへいらっしゃい……わたくしは首を長くして待ってましたよ」
華子の少女は――涙ぐみながらも、此方を一瞥してから気まずそうな表情を浮かべつつ礼をしてから――そそくさ、とその場を去って行った。
「我が息子の理解者であり――弟である薊の親友である魄とその息子よ……如何なさいましたか?我は――中に入れ、と言っているのです――さあ、此方へ……色々と腹を割って話したい事もあります故――」
「畏まりました――葉狐様……失礼致します」
何とか彼女の機嫌を損なわないように全神経を集中させながら、言葉を選び――王宮のしきたりである襖を何度か軽く叩いてから震える手で襖をあけると――隣にいる尹儒の手を固く握りしめながら、いくら親友の薊の姉であるとはいえ王宮内では目上の人物である葉狐様の部屋の内部へと慎重な足取りで歩みを進めていくのだった。
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