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第9話

「なっ…………何だ……急に泣き出したりして……っ……薄気味の悪い男だ……」 「これ、珀王や……妾の弟の薊と親友であり――尚且つ聡明で王宮の従順な燗喩――いや、失礼……現王の妃である魄に対して――そのように口悪い言葉を投げ掛けるでないぞっ……ははぁ……珀王よ――さてはお主……魄の雪のように白く美しい顔に涙が伝う様を見て――珍しく動揺しておるな?」 「ちっ……違います……断じてそのような事はありませぬぞ……大叔母上様……っ……しかし――先程の言葉は……僅かにだが言い過ぎてしまった……も、申し訳なかった……それと、これを……」 ふと、珀王が大叔母上様と呼んだ葉狐様から冷たい声で叱られると、彼は罰が悪そうな表情を浮かべつつ気まずそうに目の前にいる私の泣き顔をちらりと一瞥するも何処となくぎこちなさが残る手つきで懐から、すっ―――とある物を取り出すと此方へと差し出してきた。 (何だ……尹儒と僅かしか年齢が変わらない上に――内心では優しさ溢れる様を他人に対して悟られないように必死で隠している――少し意地っぱりな――ただの可愛らしい少年じゃないか……父とは似ても似つかない……彼は、彼だ……それ以上でもそれ以下でもない……彼と父を重ねるなんて私がどうかしていただけだ……っ……) と、改めて思い直すと―――ぐいっと着物の袖で涙を拭う。普通であれば王妃らしかぬその行動を目の当たりにした葉狐様は明らかに不愉快だと言いたげに眉をしかめるのが分かり、内心では動揺してしまうが―――そんな不安な気持ちは、愛らしい我が子尹儒の笑顔と、それと同時に私へと差し出してきた白い布を受け取り私が礼を言い終えてからホッと安堵したかのような笑顔を浮かべている最中で本来は心優しき珀王という少年のぎこちない笑顔を見た途端に消え去りつつあった。 しかし、この後―――再び、油断しきっていた私を不安という負の感情の波へと押し寄せてしまう元凶となる人物がこの妃宮に向かってきているという状況など……この時の油断しきってしまっていた私には知る由もなかったのだった。

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