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第10話

※ ※ ※ ※ カア……カアッ…… あれから、随分と葉狐様の部屋にて話し込んでしまった―――。 開け放たれた障子から見える空は橙色に染まり―――烏の鳴き声が夕暮れ時だという事を私達に告げている。隣にいる尹儒もすっかり疲れ果ててしまっているのか私の体へと己の身を擦りつけて甘えてくる。 尹儒よりも大人っぽく――― しっかりしていそうな珀王でさえも遊び疲れてしまったのか、どことなく眠そうな顔をしている。 (そろそろ……お暇しなくては……っ……それにしても―――何故、葉狐様はここまで長き時間にわたり私とお話をして下さったのだろうか……彼女にとって……かつて父の愛人であった母上の息子である私と過ごす時は……苦痛でしかないだろうに……っ……) 「おや、もう…………夕暮れ時となったか……いずれ……墨のごとき暗闇を纏う……夜がくるのぅ……そろそろこの楽しき時も終いを告げるのじゃな……その前に―――魄よ……ちこう寄れ……」 「…………か、畏まりました……葉狐様……っ……」 この妃宮において、葉狐の命令は絶対である―――と生前の母上も仰っていた。夫である屍王は録に会ってもくれず、正妻である葉狐様の存在に神経を磨り減らし、周りの守子達から奇異な目で見られていた母の尹はどれ程に傷付いて思い悩んでいたのだろうか―――。 いくら幼いとはいえ、母に守られるという事がどれ程有り難かったのか―――今になってようやく気付けた私は息子である尹儒に危機が及ばないようにするため葉狐様の言葉通りに彼女の近くへと寄って行くのだった。 「…………泥棒猫たるお主の母が―――この世から消え去った時のような……暗き夜が来るぞ?せいぜい……お主とて息子である尹儒を守るがよい……淫乱の血を引く……罪深き尹儒をな……」 「……っ…………!?」 にたり、と口元を歪めて―――葉狐様は私の耳元で尹儒や珀王には決して聞こえぬように静かに囁くのだった。

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