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第13話
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ぜい、ぜいと肩で息をして尚且つ、目に大量の涙を浮かべながら魄は目を覚ました。悪夢に苛まれるのには慣れていたものの、どくどくと心臓が早鐘の如く激しく乱れ打ち、全身にじとりとした汗が吹き出すくらいに強烈な悪夢を見たのは初めて___いや、最愛の母と父が自害した日の夜以来の事だった。
「ゆ、尹……需___尹需……っ……!?」
いつもの夜であれば、己の隣ですやすやと眠っている筈の最愛なる息子――尹需の姿が何処にもいない事に気付いた魄は慌てて捜そうとする___が、何故か頭の中が靄がかったようにボーッとして体が言う事を聞かない。
しかも、ここにきて魄は今いるこの場所が己の寝所でも__ましてや今まで数少ないとはいえ訪れた事のある夫(王である燗喩のことだ)の寝所でもないという事にようやく気付いた。
おそるおそる、ちらりと左横に目をやると___黒枠の格子戸が半分程開いている事に気付いた魄は、それとほぼ同時にその隙間から濃厚な甘い香りが困惑しきっている己を誘っている事にも気付いて__ごくり、と喉をならし唾を飲み込んだ。先ほど、悪夢に苛まれて慌てて飛び起きた時には全身が汗にまみれていたが、それは夏の熱帯夜による自然現象のもので恐怖や不安によるものではないと魄は分かっていた。
しかし、今___魄の額から頬、そして首筋にまで伝い落ちる汗は得たいの知れない恐怖と不安に支配されたせいであるものだと自覚していた。
この場から逃れてしまいたい、という衝動に襲われた魄だったが、そうはいかない__あの格子戸の奥に何が待ち受けているのかと身を震いたたせながら__ふらり、ふらりとまるで酔っぱらいのような不安定な足取りで半開きとなっている立派な格子戸まで歩んで行く。
部屋に漂い始めた甘い濃厚な香りは___魄が格子戸まで一歩、一歩近付いてゆく度に強さを増していくのだった。
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