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第18話

◇ ◇ ◇ 妙な胸騒ぎがして、床について体を横たわらせていた世純は___もう何度目になるのか分からない寝返りをうった。 日中は特に代わり映えのない日だったにも関わらず何故だか胸がざわつく。このような胸騒ぎを覚えたのは、あの夜以来だと世純は固く目を閉じつつ過去に思いを馳せた。 訳あって現王の妃である魄の親友――薊に世話を任せている【珀王】の生みの母である【黒子】が無惨にも殺害された日の光景が__十数年たった今でも世純の瞼の裏にこびりつき、心を鷲掴みにして離してはくれない。忙しなく公務に追われる昼間ならまだしも、夜はその思いが襲ってきやすい時刻だ。 『死人みたいな酷い顔、今やご立派な赤守子のくせに__』 『遊んで、遊んでよ……こっちは退屈なんだから……っ___寂しい』 そこには、存在しないはずの【黒子】が___あの無惨な夜の時と同じ格好で、同じ姿で生前己をからかう時に見せた笑い方で全身鏡の向こう側から話しかけてくる。 その度に、世純は無理やり負の感情を押し込めて眠りの世界に誘われていたのだけれど、今宵の【黒子】は執拗に横たわる己へと話しかけてくるのを自覚した途端に尚更不安を抱いてしまった。 そんな時____、 「____世純さま……世純さま……夜分に申し訳ありません。至急、お話があって……こうして貴方の寝所へと来ました……っ……」 「その声は……もしや、薊か……?」 薊の声が震えている____。 かつて愛した【黒子】と先代王との子である【珀王】を薊に託したからといって、世純と薊の特別な恋愛感情などある訳でもない、と思っていた世純は薊と寝所を別々にしていた。守子の間で己と薊は夫婦であると噂があるのは事実だけれど、そんなふざけた噂など無視していればいいとさえ世純は思っていた。 あくまで、父と母といっぺんに失った哀れな【珀王】を育て上げる存在さえいればいい___と冷徹なようだが世純はそう考えていたのだ。それに、近頃の薊は己と旧知の仲である現王の燗喩とただならぬ関係だというではないか、と思い__このまま無視をして寝たふりをしてやろうとさえ思った。 そう考えていたのに、少ししてから世純は軽くため息をつくと、のそっと起き上がって仕方なく扉へと歩んでいく。 「____このような夜更けに如何したんだ?手短に話せ」 「そ、その……は、珀王が___珀王がどこにもいなくなってしまったのです……っ……世純さま……」 「なっ…………」 母親代わりだというのにお前は何をしていたんだ、と薊へと怒鳴ろうとしていたのに__世純には、それが出来なかった。二重でぱっちりとした大きな目に溢れるくらいの涙を浮かべながら悲しそうな顔で己に抱きついてくる薊を見てしまうと、途端に何も言えなくなり__僅かに頬を染めながら黙りこくってしまったからだ。 「お、落ち着くがいい……我も……共に探そう」 「あ、ありがとうございます……世純さま__」 遠慮がちに薊の体を抱き締める世純には、鏡の向こう側から『世純の……嘘つき』と呟く【黒子】がふっと消えてしまった事に気付く筈もないのだった。

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