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第22話

「は、はは……うえ……っ……」 「大丈夫かい?ずいぶんと____混乱してるみたいだね。ぼくは、君みたいな童子とは初めて会うし、それに……いくら男性が母と呼ばれる事もあるとはいえ……僕もまだ童子だ。母と呼ばれる立場にすらない__だけど、君の身の上くらいは察する事は出来る。君は……余所からやってきて、どこかの廓に身売りされる童子だろう?」 母である魄に似た面影を纏っている名も知らない童子(とはいえ明らかに己よりは年上)の言葉を聞いて、何と答えればいいか分からずに無言のまま___こくり、と頷いた。このまま、この訳が分からない場所に一人でいた所で、離ればなれになった母と再会できることはおろか最悪の場合野垂れ死にするかもしれないのだ。いくら、王宮育ちで周囲から甘やかされてきた尹儒とはいえ__それくらいは分かる。 「そうか、成る程__君は今……神室屋の壺の中から隠れるようにして出て来た……という事は神室屋に身売りされた訳ではなさそうだね。それだったら、今頃__神室屋の主人は君を店へ通してる筈だ。それをしていない、という事は……君は逆ノ目廓に身売りされた童子だね……ようこそ、逆ノ目廓へ。実は、僕は君を探してくるように主人から言われていたんだ。まさか、神室屋の壺の中にいるとは思わなかったけれどね……さあ、行こう」 ぎゅっ…………と手を繋がれて、色々な事をその男童に聞きたかったにも関わらず__一人ではなくなった安堵感を抱いた尹儒はとりあえずは大人しく共に【逆ノ目廓】へと向かうのだった。 ◇ ◇ ◇ 「遅い……っ……主人は待ちくたびれているぞ……だいいち、これから客が増える時刻だというのに……その童子の薄汚い格好は何なんだ?【新月・鬼灯花魁】__あなたが直々に迎えにいっておきながら……」 「まあ、まあ……【女白・眠草】__そんなに怖い声で叱ってしまうと――この可愛らしい童子が怯えてしまうよ。それより、【女白・金魚草】は何処に?」 おそるおそる【逆ノ目廓】へと入った途端、途徹もない不安に襲われて小刻みに体を震わす尹儒の手を握ったままの【新月・鬼灯花魁】へと黒猫の面を被った男が厳しい口調で言い放ってきた。顔を覆うように黒猫の面を被っているにも関わらず、その様子で怒っている事と____いきなり現れた己の存在を快く思っていない事が分かって、尹儒は身を縮こまらせながら遠慮がちに視線を逸らした。 「まったく、あなたという方は____また、他の花魁達にお小言を言われたりしたら如何するのですか?まあ、それはさておき――【女白・金魚草】ならあなたの寝所で首を長くしてお待ちになっておいでです。その後で構いませんので早く、その薄汚れた童子を入水させて下さい……客にまでお小言を言われるのは此方としては勘弁ですので___」 「わかった、わかった……【女白・眠草】__君の言う通りだよ。それじゃあ、お客様の対応をお願いするよ……頼りにしているから」 にっこり、と穏やかに【新月・鬼灯花魁】が【女白・眠草】へと微笑みかけると___先程まであれだけお小言を言っていた【女白・眠草】は途端に無言になり渋々ながら小さく頷くのだった。 そして、その場を後にすると__鬼灯と眠草とのやり取りを見て所在なさげに身を縮こまらせていた尹儒は、再び【新月・鬼灯花魁】から手を握られつつも彼の寝所へと連れて行かれるのだった。

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