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第23話

※ ※ ※ すらっ…………と襖を開けた先に、最初に飛び込んできたのは上下ともに雪のように真っ白な着物を身に纏っていて部屋の中でも赤い帽子を被っていら男の人の怒り半分、呆れ半分といった顔だった。 「遅いぞ____新入りを連れてくるのにいったい何分かかっているんだ?此方はこの生意気な童子を手懐けるのに苦労していたというのに……今しがた、ようやく寝付いた所だ」 「勘弁、勘弁……それにしても、【女白・金魚草】__君は子守りの才がありそうだね。あんなに暴れ回って手がつけられなかったこの男童を眠らせるなんて……」 そのような【新月・鬼灯花魁】と赤い帽子を被っている男の人との微笑ましいやり取りを傍らで聞いていた尹儒だったけれど、ふとある事を思い出した。先程、この《逆ノ目廓》に辿り着く前に出会った赤い帽子の男と今目の前にいる【女白・金魚草】と呼ばれた男の人とどことなく似ているのだ。顔つき、雰囲気__それに話し方などが似ている。もちろん、出会ったのは少しの間だったため確信出来ずにその事について本人に尋ねるべきか、尋ねないべきか迷いつつ無意識の内にじっと目線を向けてしまう。 「おい、先程から何なんだ!?俺の顔に何かついているか?貴様、失礼だぞ……新入りのくせ……にっ……」 「ご、ごめんなさい……っ……!!」 つい、己でも気が付かない内に出会ったばかりの__それも、これから母が見つかるまでは共に過ごしていく事になるであろう【女白・金魚草】へと無礼な事をしてしまったと思い反省した尹儒は深々とお辞儀して詫びる。 「き、貴様は……っ…………」 「えっ…………!?」 てっきり、無礼を詫びた後でも一方的に叱られてしまうだろうと思っていた尹儒は目を丸くして驚愕の表情を浮かべながらまじまじと己を見つめてくる【女白・金魚草】の態度に対して呆気に取られてしまった。しかも、【女白・金魚草】は手に持っていた盃まで落として中身をぶちまけてしまうくらいに狼狽しきっていたのだ。 それほど、己がこの部屋に来るのが【女白・金魚草】にとって盃をぶちまけてしまうくらいに驚愕となり彼にとって重大な事なのだろうか、と尹儒自身も__それに隣にいる【新月・鬼灯花魁】までもが不思議に思いながらはっと我にかえって冷静となり盃を拾い上げている【女白・金魚草】を一瞥した。 「あ、あの……先程、もしくは今まで__どこかで会いませんでしたか?」 「いいや、気のせいだ。貴様と俺は__初対面だ。それよりも、早く鬼灯と共に入水してこい。貴様は生臭くて敵わん。俺は、ここでこの生意気な童子が暴れて散らかした部屋を片付けている。まったく、今宵は厄日だ__勘弁してくれ」 そう言いながら、【女白・金魚草】は尹儒の方へ目線さえ向ける事なく所々破れてしまっている書筒や割れている食器等が散らばっている部屋を黙々と片付け始めた。 (そういえば……金魚草さんが言っていた生意気な童子とやらは__どんな……っ……) と、心の中で不思議に思いながら少し離れた場所に敷いてある布団の上で散々暴れ終えてから疲労しきって眠りについているであろう【生意気な童子】とやらに目線を向けて尹儒はまたしても驚愕したせいで目を丸くしつつ呆気にとられてしまった。 「く、黒狐面のおにいちゃん……じゃなくて、えっと……珀王のおにいちゃん……ど、どうして……こんな所にいるのっ……!?」 思いも寄らない人物との再会(珀王は眠りについているが)に尹儒は部屋に響き渡るくらいの大声で叫んでしまうのだった。

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