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第24話

「しぃ……っ……金魚草が__先程言っていたばかりだろう?この男童は……今しがた眠りについたばかりなんだ……起こさないように……」 「で、でも……」 と、【新月・鬼灯花魁】に言われた尹儒は口ごもってしまったが____まるで、それを察知したかのようにその途端に黒狐面の男童【珀王】がぱちっと目を開ける。 「こ、ここは…………っ__いったい、何処だ!?俺は__確か、大叔母上の寝所に招かれて妃宮にいたはず……このような異常事態なのに警備人はいったい何をして……っ__」 目を開けた途端に、見知らぬ光景と布団に横たわる己を心配そうに覗いている【新月・鬼灯花魁】と【女白・金魚草】の存在を怪訝に思ったのか珀王は慌てて身を起こすと誰ともなしに動揺のこもった声で呟いた。 「お、おにいちゃん……黒狐のおにいちゃん_僕、尹儒だよ……っ……前に母上と一緒にいた尹儒……おにいちゃんまで、どうしてここにいるの?」 尹儒の姿が目に飛び込んできた途端に、珀王は見る見る内に眉間に皺を寄せ__明らかに怒りをあらわにしていると分かる程の険しい表情を浮かべて、愉快げに己へと微笑みかけてくる尹儒を睨み付けた。 「や、やかましい____頭の上で……きん、きんと甲高い声で騒ぐな。それに、俺が……お前を忘れる訳がないだろう。大切な人の命を奪った者を___忘れる程、俺は間抜けじゃない!!」 部屋にある割れた鏡が、珀王の目に入る__。 それは、此処に連れて来られたばかりの時に暴れた珀王が割った鏡なのだが__そんな事を知る由もない彼は好都合だ、といわんばかりに近づくと辺りに散らばった大きめの破片を手にしてから、今度はいきなり珀王から怒られて尚且つ睨み付けられた事に対して困惑しきって目に涙を浮かべながら身を震わせて怯えている尹儒の元へと歩いていく。 「____答えろ、何故……お前は大叔母上様を殺めた……っ__お前の母が大叔母上様から馬鹿にされていたからか……っ……何故だ、何それならば何故……お前の母でなく、まだ童である、お前が殺めたのだ!?」 「ち……ちが……う……っ……ぼ、僕は__おに……いちゃんの……大……叔母上様を……葉狐様を___あやめ……てなんか……ない……母上も……っ__」 激昂して頭に血がのぼった珀王から勢いよく床に倒され、しかも片手にもった鏡の破片の鋭い切っ先を首筋に突き付けられてしまった尹儒はそう答えるだけで精一杯だった。 尹儒は王宮の寝所の床について眠っている間、訳が分からない内に、この【逆ノ目郭】という場所に何者かから連れて来られただけだ___。 もちろん、珀王が懇意にしている大叔母上の葉狐様を殺めてなんかいない___。 鬼のように怒り狂う珀王に、そう説明しようとしても、情けない事に泣きじゃくっているせいで__うまく話せない。今、己の頭に浮かんでいるのは愛しい母【魄】の優しい笑顔だけだった。

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