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第27話
王宮に富と幸福をもたらし、代々の王や守子達から恩恵の神だと崇められている【禍厄天呪】を祀る祝寿殿(王宮の敷地内にある)という御殿の呪術師であるという魔千寿――。
そもそも、この男に対しては以前から得たいの知れぬ不気味さと嫌悪感しか抱かなかったのだ――と世純は鋭い目付きで余裕そうな笑みを浮かべたままの魔千寿を睨み付ける。
懇意にしていたという訳ではなかったものの、魔千寿とは初対面という訳ではなく何度か会話を交わした事がある世純だったが、その度に得たいの知れぬ不安と不気味さを感じていた。むろん、冷静で尚且つ面倒事が嫌いな世純は面と向かって木偶の童子こと【魔千寿】に文句など言わなかったがよそよそしい態度で接していた。
はた、と___唐突に世純は何故己が魔千寿に対してそのように嫌悪感を抱いていたのか理解した。
(この男の忌々しく笑む顔だ……この男__以前から口元は歪めているというのに目が全く笑っておらぬ……それどころか……我に対して敵意を剥き出しにしているとは……)
「嫌やんな……世純様。そんな所で案山子のよつに突っ立って――。貴方様の為に用意した余興が台無しやき……さあ、此方へ――此方へ……貴方様を待っている御方もおられるやんな」
「い、いったい……貴様は目的は何なのだ……っ___こ、このような悪趣味極まりない行為を……何故……っ……」
情けない事に、魔千寿から睨まれ一歩も動けなかった世純――。それは、魔千寿に対しての恐怖からではなくこのまま前進してもいいものかと判断に迷ってしまったせいだ。
裸に近い姿の薊を取り囲み、その象牙のように美しく滑らかな白い柔肌を舐める度に――周りで身を屈めていた何十人もの守子達の容姿が徐々におぞましく変化していったからだ。
肌は緑色に変化し、張りがあった肌は枯れた木々のように瑞々しさが変化していってしまう。そして、守子達が身に纏っている上下衣の下からでも理解できるくらいに腹が異様に膨れているのだ。
木目の床に置かれた数本の蝋燭の炎しか光源がなく、暗闇の中で爛々と目を輝かせながら、気絶しているためか微動だにしない薊の体を一心不乱に舐め尽くす守子達の様は奇怪な見た目も合間って異様としかいいようのない光景だった。ゆらゆらと微風に揺らめく炎に照らされているせいで、守子の群れが骨の随までしゃぶりつく勢いで薊を舐め尽くさんとする黒い影が壁に写し出される事もあり世純はごくりと唾を飲み干した。
「あ___薊から離れろ……むろん、今すぐにだ……っ……!!」
【鳳王の間】全体に響き渡る程の大声で世純は叫ぶ。今まで、極めて冷静に努めようとしてきた世純にとって声を震わせ――尚且つ、内心は恐怖や戸惑いといった感情から取り乱しつつも両目を吊り上げながら怒りを露にしたのは初めての事だ。
「善きかな、善きかな……此れまで取り乱した事のない世純様を揺さぶるのは――実に愉快、愉快……しかしやな、まだまだ余興としては物足りないやんな__そこでやな、私の王妃様……余興を愉快にするべくもっと刺激的な演出をしても善きかな?」
「き、貴様は先程から何を言っているのだ……貴様の王妃だと!?魄は……っ……魄はこの国__いや、現王である燗喩の妻である!!この二人の絆に__貴様ごときが割り込むなど勘違いも甚だしいぞ」
爛々と闇に光輝く奇怪な姿となった守子達の目が一斉に世純を貫く。もちろん、悪意ある眼差しでだ。しかし、そんな事などお構い無しに魔千寿へと叫んだ世純は蝋燭の炎によって照らされた魄の様を見て再び唖然としてしまうのだった。
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