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第37話

ぽつっ___と血のように真っ赤な雨が頬を濡らした途端に、まるで熱湯をかけられたかの如く凄まじい熱さが尹儒と珀王に襲いかかってきた。 「あ……っ……あつい……っ___あついよ……!!」 「ば、馬鹿……っ……!!あまり頬を擦るんじゃない――お前の頬に……擦る度に黒い穴が開いているぞ……っ____!!」 堪らず、尹儒は咄嗟に頬を擦るのだが、すぐに珀王が叱りつけてくる。しかし、尹儒の目には自分と違って擦ったり触れたりしていないにも関わらず、空から降る真っ赤な雨が落ちてきて頬を濡らす度に黒い穴が開いていく珀王の様が見えていて恐怖と驚愕とで膝が震えてしまっていた。 おそらく、互いに腕に異変がないのは長袖の着衣を纏っているからに違いない。 『ごめん、ごめんよ……尹儒に珀王。もっと早く此れを君らにさしておくべきだった。今宵のお客さんは――いつもよりも、ご到着が早いようだ。そうだね、女白・金魚草____?』 『ああ、何だか妙な胸騒ぎがする。こうなった以上、さっさと郭に戻った方がいい……』 ふと、【新月・鬼灯花魁】が慌てて駆け寄り手に持っている柄の部分が緑色で、ばっと開いた時に目を引く外側の傘地の部分は全体が淡い桃色の番傘を尹儒と珀王をすっぽりと覆うようにしてさした。 とはいえ、【新月・鬼灯花魁】と【女白・金魚草】は番傘の中には一歩も入ってはいないため相合い傘状態となっている。その事に、はっと気が付いた珀王は気恥ずかしさから咄嗟に番傘の外へと出ようとしてしまう。 『おい……っ___今の鬼灯花魁の言葉を聞いていなかったのか!?生者が血怪雨に打たれると、たちまち黒穴があき……やがて、お前ら自身を飲み込み存在ごと此方側へと引きずり込まれるぞ……血怪雨は亡者共には異変をもたらさないが、生者には猛毒となる!!』 ぐいっ____と勢いよく【女白・金魚草】が珀王の腕を引いせいで、番傘の中でまるで恋人同士のように寄り添った形となり、ついには幼い尹儒までもが頬を赤く染める。 「狐面のおにいちゃん、尹儒のこと――心配してくれたの?ねえ、おにいちゃん……尹儒の方に向いて?」 「べ……別に……っ……お前を心配したわけじゃ……っ……」 林檎のように顔を真っ赤にしながらも、何だかんだ――にこにこと満面の笑みを浮かべる尹儒の方へ振り返りつつ必死で否定の言葉を述べようとした珀王の未だにほんのりと赤く染まっている頬に柔らかい尹儒の唇が軽く押し当てられるのだった。 再び、珀王の顔が赤く染まった様を【新月・鬼灯花魁】と【女白・金魚草】は微笑ましく見つめていたが、遠くの方から逆ノ目郭に【妖人のお客さん】が長い橋を通って来ている事を知らせる打板を叩き合う、かんかんという音が鳴っていることに気付いたため慌てて逆ノ目郭の内部へと戻るのだった。

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