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第41話

「蛇之・愚生……っ___貴人は、このような場所で、いったい何をしておられるのか!?また貴人の悪癖が出たのか……まったく、煙のように烏之・吾人が貴人がいなくなったと泣き喚きながら探していたというに……。おや、この醜悪な香りをぷんぷんとさせている生者の童子は如何したというのです?ふん、おおかた__童子をつまみ食いしようという訳でしょう……まったくもって、おぞましい__某には理解できませぬ」 【蛇之・愚生】と呼ばれた男が、呆気にとられ恐怖に怯えている尹儒の細い手を引き寄せて強引に己の宿泊する寝所へと連れて行こうと歩み出した時だった。 またしても、奇怪なる姿をした男が怯えの表情を浮かべる尹儒と【蛇之・愚生】から馬鹿にされ不貞腐れてるといわんばかりの表情を浮かべる珀王の前に現れたのだった。 「は、珀王の……おにいちゃん……っ__また、変なのが現れたよ……っ……」 「いいから、黙って隠れてろ……っ……!!」 鷹の頭を持ち、下半身は黒い着物を着たニンゲンの姿で、右手に抱えるようにして茶色く透けた瓶を持っている。 【蛇之・愚生】と同様に、下半身は生者の人間の姿をしていて割と仲睦ましげに会話をしているところからすると、おそらく二人は常日頃から行動を共にするのだろう、と何となく悟った尹儒だけれども恐ろしいことに変わりはなく先程からずっと珀王の後ろに隠れていた。 「はあ、成る程、成る程。この生者の餓鬼が【蛇之・愚生】の新たなる悪癖の対象という訳ですか……ふふん、この見目麗しいという訳でもない餓鬼がねぇ__蛇之・愚生――貴人は何時から趣が変わったのです?某には……理解しかねます」 「おい、おい……鷹之・某__お前さんの目は腐ってんのか!?よーく、目ん玉かっぽじって見てみやがれよ……めんこい、めんこい目に入れても痛くない程の別嬪な童子だぞ――なあ、尹儒?」 びくっ……と尹儒が体を震わせたのは【蛇之・愚生】が彼に対して何かをしたという訳ではない。 【鷹之・某】がその言葉とおりに、珀王の背中でぶるぶると体を震わせて怯えている尹儒の前まで近づいていき、目を見開きながらまじまじと観察してくるからだった。 「……っ____な、何ですか……?」 「何、何とは……どういう訳か。某は蛇之・愚生なる友人が貴人をよく観察してみろと申すからそれを実践したまでのこと__それ以上でも、以下でも無きなり」 もう少しで、尹儒の唇と【鷹之・某】の唇(というよりは嘴)が接触してしまう――といったところで、怒りに支配された珀王が行動に移す。 あろうことか、【鷹之・某】の腕に噛みついたのだ。 そのせいで、【鷹之・某】の興味は一気に尹儒から珀王へと移り変わる。 「__に___似て、いる……」 ぼそり、と【鷹之・某】が呟いたが、それは尹儒や珀王の耳に届かない。 【蛇之・吾人】は傍観者と化してその場を見守っている。 「蛇之・吾人……やはり、貴人の目ん玉はどろり、どろりと腐っているのではないか。此方の生者の餓鬼の方が……めんこいとは。それに、めんこいだけでなく、芯の強さもあるとは__いやはや、参り申した……珀王とやら――今宵は何も致しはせぬが、次なる夜に是非、某と伽を致して頂きたい」 「てめえは阿呆か、得たいの知れない不気味な輩と――と、と……伽なんてする訳がないだろ……いい加減にしろ。それと、尹儒の前で夜伽なんて言葉……言ってんじゃねえよ……っ……」 珀王の声が妙に甲高くて裏返っている。 それに珀王は顔を真っ赤に染めながら両手を握ってくる【鷹之・愚生】へと吠えていた。 「あ、あ……あの___あなたは……誰ですか?」 「………………」 そんなやり取りを戸惑いながらも取り敢えずは見守っていた尹儒だったけれども、ふと背中何ともいえない気配を感じて振り向いた。 そして、勇気を振り絞っておそるおそる尋ねてみたものの答えがない。 その人物は、全身を真っ黒な布で覆いつつ手鏡を持って、ただ尹儒の背後に佇むばかりだった。 まるで、己の影だ____。

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