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第11話
受傷機転を話し、怪我の様子を撮影し、診断書を書いてもらって帰宅したときには日が暮れていた。
「倫さんも、よろしければお夕飯を上がってらして」
祖母の誘いに倫は素直に笑顔になって、稜而の隣に座る。
「ご飯もおつゆも遠慮なくお代わりしてね」
その言葉にも素直に頷き、ハンバーグを食べながらご飯と味噌汁を一回ずつお代わりして、笑顔だった。
「とても美味しかったです。少し食べ過ぎたくらい頂いてしまいました。ごちそうさまでした!」
両手をパチンと合わせて挨拶すると、松葉杖を突く稜而を手伝って、一緒に二階の部屋で入ってくる。
「カッコイイ部屋!」
コンクリート打ちっぱなしの壁に、学習机は床のフローリングと同じダークブラウンで、ファブリックはモノトーンで統一されていた。
その中で飴色のチェスターフィールドソファが存在感を放つ。
「素敵なソファだね」
「中学生の頃、父親とイギリスに旅行して、記念に本場のチェスターフィールドでオーダーしたんだ。船便で送られてきた」
「本当の金持ちは、やることが違うね。お洒落なお金の使い方!」
「母親がいなくて、多少家計に余裕があると、こうやって物質で穴埋めされるんだ」
稜而はギプスを嵌めて重くなった足を肘掛けに乗せ、ソファの座面に仰向けに倒れた。
三人掛けのゆったりしたソファなのに、倫はわざわざ稜而の肩を叩き、頭を上げさせて、稜而の頭の下へ自分の脚を滑り込ませる。さらに自分の太腿をぱたぱた叩いてアピールされて、稜而はゆっくり頭を下ろした。
「なんで?」
見上げて問う稜而を見下ろして、倫はニッコリ笑った。
「わかんない。こうしてみたかっただけ」
そう言いながら、倫の手は稜而の肩に触れ、腕を辿り、手首に触れて、そのまま手の甲を包むように握った。
「稜而、痛かったね。僕のせいで殴られちゃった。ごめんなさい」
「倫は何も悪くない。被害者だ。俺も主将の被害者だ。倫の被害者じゃない」
稜而は倫の手を握り返した。
つないだ手は熱がこもり、でも一方的に外したら、相手を傷つけてしまいそうな危うい空気を孕んでいた。
「手が熱くなっちゃったね」
倫はあっさりそう言うと、互いの手のひらに隙間を開けて、指先だけを交互に絡めた。
「恋人つなぎ」
「え?」
「恋人つなぎっていうんだって。こういう手のつなぎ方のこと」
「ふうん」
稜而はそのまま手をつなぎ続けた。
「そろそろ帰る」
倫は立ち上がると、また明日と手を振って、自分のリュックサックを肩に担ぎ、ソファに寝る稜而の傍らに膝をつくと、「お大事に」と言って稜而の頬に一瞬だけ唇を触れさせ、部屋を出て行った。
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