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第13話

「稜而さん、本当に電車で行くの? 運転手さんがいいって言ってくださってるんだから、お願いして、おじい様の車で行ったら?」 真っ白なエプロン姿のまま、祖母は玄関まで稜而を追い掛けてきた。 「運転手つきの車で学校の前まで乗りつけたら、皆の注目を浴びて居心地が悪いよ。高校生は、高校生らしく電車に乗ります。大丈夫だよ、駅のホームで待ち合わせて、倫と一緒に行くから」 倫と一緒に行くから、という自分の言葉に微かな甘さが含まれていたことに気づき、稜而は笑顔で誤魔化した。 「いってまいります」  明け方に降った雨が、植物に落ち着きを与え、土は黒々として、都会の空気は珍しくしっとりと穏やかないい香りがする。  稜而は家を出て、ゆっくりと深呼吸すると、両手に持った松葉杖と自分の身体を交互に前へ進めた。 「うーん。いつまで経っても駅に着かないな……」 横断歩道の赤信号を見ながら前髪を吹き上げ、松葉杖を脇に挟んで手首を振る。 「剣道とは使う筋肉が違うのかなぁ?」  信号が青に変わって、稜而は目の前の白線に松葉杖をつき、身体を浮かせようとした。 「あっ?!」 白線の上に残っていた雨水で、左の松葉杖の先が滑り、稜而は咄嗟に滑った松葉杖から手を離し、健側の右足だけで地面を捉えて、膝の屈伸で衝撃を吸収しようとしたが、今度は滑らなかった右の松葉杖が膝の屈伸を妨げて、結局バランスを崩して尻もちをついた。 「稜而っ!!!!!」  唐突に倫が目の前にいて、稜而をひきずるようにして歩道へ連れて行く。そして青信号が点滅する中を走り、すっ飛んだ松葉杖を回収して戻って来た。 「どうしたの?」 「駅の階段が心配だなって思って、改札の外にいたんだ。稜而が来たのが見えたと思ったら転んで、気づいたら稜而に向かって走ってた。周りを見ないで走るなんて、危ないよね」 肩の力を抜き、倫はふわりと苦笑する。 「う、うん。飛び出すのは、よくないよ」 「そうだね。明日からは稜而を家まで迎えに行く」 稜而の手や尻や背中についた雨水をハンカチで拭きながら、倫は言った。 「え? ウチまで?」 稜而が振り返ると、倫は隣に並んで立って頷いた。 「うん。だって心配だもの。駅で待ってるなんて、できない。それに……」 「それに?」 「迎えに行ったほうが、少し早く会える」 横顔を見ていた稜而に顔を向け、倫はニッコリ笑った。 「あ、う、うん。それはそうだけど」 自分の顔が熱くなるのを自覚しながら、稜而は口を開けたまま言葉を紡げずに突っ立った。 「青だよ。気をつけて、ゆっくり行こう」 倫が歩くゆっくりとした速度に合わせて横断歩道を渡り、二人は混雑する前の電車で学校へたどり着いた。 「早く着きすぎたね」 朝学習の時間まで、三〇分以上余裕があった。左腕に巻いたGショックを見る稜而に、倫が話し掛ける。 「第二音楽室に寄ってもいい?」

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