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第18話*
布団を巻き付け蓑虫のような姿でベッドの上に静止して、どこでもない空中の一点を見ながら思考をめぐらせた。
「なんでわざわざ告白するんだろう? その結果、傷つくことだってあるはずなのに。どうしてそんなリスクを冒してまで伝えるんだろう? 一人では抱えきれないから相手にも負担させるのかな? ツガイとして独占したいから宣言する? 独占欲?」
稜而はしばらく考えてから目を見開いた。
「セックス」
口をついて出た言葉にガスコンロの炎のように一気に顔に熱が回る。
「そんな理由? ヤリたいから誘ってる、交渉してるってこと? 俺、倫とセッ…………」
思考をまとめているあいだにも、脳裏にはキスをしている自分たちの姿が思い浮かぶ。頭の中の二人は服を着ていなくて、でも知識がないからか、肩より下の映像はぼんやりして思い浮かばず、ただ下腹部に熱が溜まって、もぞもぞと下着の内側へ手を差し込んだ。
稜而は目を閉じ、枕に唇を押し付けながら、パジャマのズボンと下着を押し下げ、シャツを捲り上げる。
布から解放され熱く硬くなって上向く己を手に包む。ゆっくり上下に撫でてさらに高めて、先端に溢れた透明な液体を親指の腹で塗り広げ、更に自分を刺激をしてやる。腰が震えるようなむず痒くて熱い快感があって、さらに高まり、稜而は倫を思って枕にキスを繰り返しながら、自慰を続けた。
「倫……倫……」
自分を苛むように手を動かし、強過ぎて逃げ出したくなるような快感に身を任せる。
「ん……ああ、倫」
腰の中にマグマのような熱が渦巻き、脳内には裸の倫がいて、稜而は己の興奮を握り締めて素早く手を動かした。
「あ、いきそう、いきそう」
稜而は眉根を寄せて泣きそうな顔になりながら、自らを追い詰め、枕元からティッシュペーパーを抜き取ってあてがう。
「くっ、はあっ!」
細い管の中から勢いよく白濁が放出されて、稜而は喘ぎ、恍惚とした。
「はあっ、はあっ」
管の中身まで絞り出し、拭き取ったティッシュペーパーをゴミ箱へ投げ入れて着衣を正し、ベッドに寝転がって、目を見開いた。
「倫で、しちゃった?」
稜而は枕に顔を埋めると、うわああああっと大きな声を上げた。
翌朝はいつもより念入りに身だしなみを整え、玄関で倫を待った。
「おはよう、稜而」
いつも通りの笑顔に稜而は目を伏せる。
(一方的に好き勝手な妄想をして、自分の欲望の相手をさせてしまった)
後ろめたさに目を見ないまま「おはよう」と答えた。
「発表会に来てくれてありがとう。父親が『遅くまで食事に付き合わせて申し訳なかった。今度は早い時間からゆっくり遊びに来てください』って」
「こちらこそお世話になりました。また遊びに行きますって伝えて」
並んで話しながら、やっぱり倫の目を見ることはできないまま駅へ向かう。
それなのに電車座席に並んで座り、倫の肩が触れると心拍数が上がり、昨夜の妄想が脳内で繰り返される。
下腹部には甘い熱が回り、倫の体温を全身で欲していて、手を繋ぎたい、キスをしたいという欲求だけが頭の中を渦巻いていた。
「昨日、遅くまで付き合わせちゃったから疲れた?」
「ううん、そんなことない。疲れてない。そういうことじゃなくて。ただ」
「ただ?」
顔を覗きこまれて、稜而は自分の耳や頬が赤くなるのを感じながら言った。
「手を繋ぎたい」
「なぁんだ。いいよ、繋ごう!」
当たり前に恋人つなぎをして、倫は堂々としている。
体温が直に伝わってきて、稜而の欲求は深まる。キスもしたい。抱き合いたい。
移りゆく車窓からの景色を目で追いながら、稜而は倫の手を握って決意した。
(告白しよう。嫌だったら俺から逃げて。そうしなければいつか自制が効かなくなって、倫を傷つけるかも知れない。告白は、たぶんきっと宣言なんだ。嫌なら逃げて。もしそうでないなら、互いに向かいあえたら、幸せ)
「幸せ」
声に出してしまって、倫が振り返った。
「ごめん、何か言った?」
「う、ううん」
俯いて首を左右に振るうちに、電車が揺れて立てかけてあった松葉杖が滑って倒れた。
倫に拾い上げてもらい、受け取りながらも思考は続く。
「でも」
「ん?」
「何でもない」
(告白って、どうやるんだろう?)
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