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第20話
告白の目的は、①倫に求愛をして、②OKをもらって、③二人の時間を過ごすこと。
「意外にシンプルだ」
今まで自分が見聞きしてきた友人の体験談やテレビドラマ、映画や小説はこんなシンプルな告白だっただろうかと首を傾げる。
「どうしたの?」
肩に頭を載せたまま、倫が稜而を見上げた。
「考え事」
「今朝は考え事ばっかりだね」
「今まで一度もしたことがないことをしたいと思ってるんだ。だから、落ち着いてよく考えないと」
「石橋を叩いて壊すタイプ?」
「そんなことはないと思う。頭の中で堂々巡りを始めたら、頭の中だけ動かしてバランスが悪くなってるってことだろ? 本を調べたり、人に聞いたり行動して、堂々巡りの外へ方向転換をはかるよ」
「じゃあ、僕でよければいつでも聞いて」
倫はあくびをしながら軽く言って笑ったが、稜而は恋人つなぎしている手を強く握った。
「本当に聞かせてほしい」
「いいよーん」
真剣な声と裏腹に、倫はのんびりした声を出す。
稜而は少し混雑し始めた車内で、手すりや吊革に掴まる人の森の中に沈み込み、青く深い湖のような静謐な気持ちで倫の耳元へ口を近づけた。
「俺と恋人同士になって、二人きりの時間を一緒に過ごしてくれませんか」
倫は丸い目をさらに大きく丸くして、それからすうっと一回深呼吸すると、笑顔と同時に肩の力を抜いて、再び稜而の肩へ頭を預けた。
「僕たち、もう恋人同士だと思ってた」
もたれる倫の聡明そうな額を見ながら、稜而は小さく首を傾げる。
「いつそんな話をした?」
「話さなくたって、恋人同士がすることをしてるから、そうなんだろうなって」
「告白しなくていいの?」
「してもいいけど。しないまま自然に始まる人もいるし、稜而と僕はそうなんだと思ってた。大人っぽーい! と思ってたけど違ったみたい?」
倫は首を傾げて稜而の顔を覗き込み、稜而は唇を突き出す。
「どうせ大人の雰囲気を壊すガキだよ」
「ガキなのは僕も一緒。はっきり言葉で刻みつけて覚悟を持って付き合うのはいいと思う。ねぇ、今日は恋人同士になった記念にデートしよう」
倫は上野駅で降りると、公衆電話から学校へ電話を掛けた。
「一年A組の渡部倫です。今、上野駅にいるんですけど、吐き気と腹痛が酷いので、今日は欠席して家に帰ります。渡辺稜而くんも一緒です。一緒にタラコのおにぎり食べたら、一緒に具合悪くなりました。え? 隣にいたけど、またトイレに行っちゃった。ごめん、先生。僕もトイレ行きたい。漏れる、漏れる! じゃあねー」
一方的に電話を切って、倫は気分よさそうに伸びをした。
「食中毒?」
「可哀想に、倫くんが張り切って恋人の分までタラコのおにぎりを作ったばっかりに。僕、本当にタラコのおにぎりにあたったことがあるんだ」
倫は笑ってリュックサックから取り出した勉強道具を、率先してコインロッカーに放り込む。
「今日は筆記用具と弁当だけ持って、校外学習!」
Let's go! とコインロッカーの鍵を閉めて倫は駅を出た。
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