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第27話
「僕も、恋も愛も結婚もわかってないと思う。セックスした結果が子どもなのに、子どもは無垢な存在です、セックスには近づいてはいけませんみたいな矛盾もよくわからないし」
部屋に入り、すとんとチェスターフィールドソファに座って、倫は両足を跳ね上げた。
稜而もうんうんと頷きながら隣に座る。
「子どもの数だけ行為があったはずなのに、大人たちの箝口令の敷かれ方も凄いなぁと思う」
倫はソファの上に体育座りをして、膝の上に顎を乗せながら喋った。
「僕、中学生の頃、お父さんとお母さんに『今でもセックスしてる?』って訊いたことがあって、晩ご飯が凍るかと思ったから、それ以来、自分で何となく察してるけど」
「察するなんて、できるの?」
「夜中にすごく静かにしてると、寝室から鍵のかかる音が聞こえることがあって、しばらくするとお父さんがトイレに行く。セックスの時間って案外短いんだなぁって。ラブホテルは二時間なのに、二時間なんてかかってないよ。たぶん三十分くらい」
稜而はまだ固定が残る足は床に下ろしたまま、反対の膝だけをソファの上で抱えた。
「ふうん。ラブホテルが二時間なのも初めて知ったけど」
「マジで? 今度、ちゃんと見てみなよ。休憩二時間って書いてあるから」
「どこで見るの? ラブホテルなんて見えるところにある?」
「先週渋谷で映画観たとき、途中の道にいっぱいあったじゃん!」
「そうだっけ?」
二人は顔を見合わせながらぽんぽん喋ると、またそれぞれ抱えている膝の上に顎を乗せた。
「僕たちは前途多難だね」
ふうっと倫は溜め息をついた。
「ねぇ、倫。倫は男同士ってどうやってセックスするのか知ってるの?」
「ちんちんを、お尻の穴に挿れるんだって」
頬を赤らめ、前を向いたままボソボソ話す倫の言葉に、稜而は飛び退いた。
「はあああああっ?! 出すところに入れるっ?! どうやってっ?!」
「僕だって、そんな細かいことはわかんないよー。でもそうするってー」
倫は膝を抱えたまま、不機嫌そうに唇を尖らせた。
稜而はその横顔を見て居住まいをただし、改めて倫の顔を覗き込む。
「倫は、そういうことしたいの?」
「お尻に何かを入れるなんて気が進まないけど。……でも稜而となら、してみてもいい」
倫の声はどんどん小さくなり、耳は燃えるように赤くなって、顔は抱えている膝の間にめり込んだ。
「あ、ああ、うん。倫がそう思ってくれてるなら……」
倫の顔の熱が飛び火したように稜而の顔も熱くなり、稜而は静かに深呼吸して、膝の谷間に顔を埋めたままの倫のこめかみに唇を押しつけた。
「恋も愛も結婚も、セックスもわかってないけど。一緒に知っていこう」
倫は抱えた膝の谷間に顔を埋めたまま、しっかりと頷いた。
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