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第30話*

 とりあえずベッドヘッドにコンドームの箱を置いて、寝支度をしてベッドに潜り込んだが、その存在が気になってごそごそと手を伸ばした。  箱の中からひとつ取り出し、読書灯に照らす。正方形のパッケージの中に、バブルリングのような円形のシルエットがあり、指先で押すとぬるぬるとパッケージの中を動いた。 「『人生においては、コンドームを使わないセックスより、使うセックスのほうが、圧倒的に回数が多い』か。言われてみればそうだよな……」 父親の言葉を反芻しながら、ベッドの上を転がる。 「俺、倫とセックスするのかな……?」  下腹部にはふわりと熱が灯り、そういえば今日は一度もしていないなと思う。  稜而はパジャマの上から自分の形を撫でた。すぐに形は明確になり、押さえつけられる鬱陶しさを感じ始めて、ズボンと下着を押し下げると、自分の蕊が上向いて揺れていた。  手の中に包んで擦ると、さらに血液が集まり熱く硬くなっていくのがわかって、稜而はコンドームのパッケージの端を裂いた。  薄暗がりで目を細め、表と裏を確認して先端にあてる。精液溜まりを指で押さえて空気を抜いて、するすると膜を伸ばし、茂みを掻き分けて根元まで覆った。 「これでセックスするのか……」 稜而はシーツに膝をつき、枕の上に覆いかぶさった。 「倫、倫……っ」  あの肌に直接触れるのか。体操着に着替えるときに、下着姿までは見たことがある。滑らかな艶のある肌。細い身体。外気に晒された刺激で尖る乳首。ピアノを弾く細長い指。あの指は感じたら枕やシーツを掴むのだろうか。  最近の稜而は、倫のことを考えてする。  倫も稜而のことを考えてすると言っていた。  どんなふうにするんだろう。男のやり方は相場が決まっているだろうけど、あのピアノを弾く長い指が、自らを追い上げ、責め立て、こんな熱く切なく泣きたいような変な気持ちになりながら、熱が溜まるのを待ち、放出を願うのか。  倫の身体に自分の身体を重ねてみたい。直接肌と肌を触れ合わせて、抱き合ってみたい。キスをして、舌を絡めて、全身あますところなく触ってみたい。 「ああ……倫……」  身体を支えていた肘が折れて枕へ両肩をつき、カバーに頬を押しつけながら、稜而は右手で薄膜に覆われた己を扱き、左手で身体を撫で回した。 「はあっ、はあっ」  指の腹で先端を撫でると、電流が流れるような刺激があって腰が跳ねる。 「倫……」 稜而は目を閉じ、自分の手で作った筒に向けて、そっと腰を押し出した。 「あっ」 甘い刺激に恐れおののくように腰を引くが、もう一度刺激を味わいたい欲に駆られて、また腰を進める。繰り返すうちに、ぎこちないながらも男らしい律動が生まれていた。 「あっ、あっ、倫……。倫」  枕に押し付けた頬は歪み、眉間には自然と力がこもって、薄く開けた口で酸素を求める。  夜気に晒された腰はゆらゆらと前後し続け、右手の動きは速度を増した。  瞼の裏にはベッドに仰向けになり、稜而へ向けて身体を開く倫の裸の姿があった。 「倫……」  稜而はティッシュボックスへ手を伸ばし掛け、その手を止めて、自分の手で受け止めることをせず、存分に放った。 「ああっ、あっ、あっ……。あ……っ、まだ出る……。あああっ」 止まない射精に背を丸め、放出のたびに腹筋を震わせて、血管を駆け巡る炭酸水のような快感に身体を攻撃されながら、稜而は絶頂の時間を過ごした。 「はあ……。倫に会いたい……」  清涼な風に吹かれるように落ち着きを取り戻し、一緒に落ち着きを取り戻した雄蕊からコンドームが滑り落ちる感触があって、慌てて手で受け止め、中身をこぼした。 「うっわ、最悪!」  稜而はティッシュボックスを引き寄せ、ティッシュペーパーが粉になるほどゴシゴシ拭く。 「男って面倒くさい……」 眠気と倦怠感とため息と一緒にシーツをバスルームまで引きずって行った。

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