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第31話

「お父さん、理解があるね」 洗いたてのシーツが敷かれ、メイクされたベッドの上に、倫は軽やかにダイブした。 「使ってみた?」  倫は、コンドームの箱を手に、顔の横で左右に振って見せる。 「使うっていうか……」 前夜の行為をはっきり覚えている稜而は言葉を濁し、ベッドから目を背けた。 「つけて、すぐ外しちゃったの?」 「いや。出した、けど……」 「僕のことを考えながらした?」 ころんと寝返りを打って、ベッドの端に座る稜而の顔を覗き込んでくる。 「うん。ごめん」  挿入を妄想した罪悪感で稜而は倫から目を逸らした。 「謝らないでよ。僕だってエロいこといっぱい考えてるもん、お互い様! さ、こっち、こっち!」 ベッドの上に座り、壁に寄り掛かった倫は、自分の隣のスペースをぱたぱた叩く。 「うん……」  稜而がベッドの上に乗り上がり、壁を背にして倫の隣に座ると、倫は稜而の肩に頭を乗せ、間近で稜而の顔を見上げ、耳に唇が触れる距離で囁いた。 「ねぇ。どんなことを考えたの? 僕、裸だった? たくさんエッチなことを言ったり、したりした?」 「そ、それは言えないけど」 頬に髪が触れる距離で話されて、それだけでも下腹部は反応し、稜而は倫に近いほうの膝を胸元に抱えて、さり気なく庇った。 「でも稜而が気持ちよくなれる内容だったんだ?」 「う、うん」 「お役に立ててよかった。あ、耳が赤いよ」 「うるさいな」 唇を突き出した稜而にお構いなく倫はしゃべり続ける。 「僕も稜而と裸で抱き合うシーンを妄想してる。いっぱいキスして、触りあって、硬くなったあそこも触って、一緒に気持ちよくなるっていう妄想。いくとき、超気持ちいいよ。マジイキしてちょっと声が出ちゃう」 ふわっと甘い吐息をついて、稜而の肩にもたれる。稜而は気づかれないように深呼吸してから、倫の肩を抱いた。  少し顔を動かすだけで、稜而の唇は自然に倫の髪に触れ、柔らかな黒髪に口づけた。 「いい匂いがする」 「シャンプー変えてないよ?」 「倫はいつもいい匂いがする」 「僕も稜而の匂い、好きだよ。ウッディ系の匂い」 倫は稜而の首筋に鼻を触れさせた。 「ウッディ? 木? 俺、木の匂いがするの?」 「いい匂いだよ。爽やかだけど穏やかで温かみのある……材木屋さんみたいな……」 「材木っ? 俺、材木の匂いなの?」 稜而が身体を離して倫の顔を見ると、倫は小さく舌先を出して笑った。 「ごめん、語彙が足りなくて。でも材木屋さんの前を歩くと、いい匂いがするじゃん。心が安らぐなーっ、爽やかだなーって感じの」 「フィトンチッド?」 「そんな感じ! 森林浴みたい! 稜而の匂いで森林浴ーっ」 倫はタックルするように抱き着いてきて、不意打ちを食らった稜而はそのまま壁沿いに倒れ込んだ。  ベッドの上に折り重なっている、という状況に一瞬言葉に詰まる。静かな時間が流れて、倫は稜而の胸に頬擦りをした。 「なんか、セックス始まりそうじゃない?」 「えええええええっ?!」 飛び起きようとした稜而を、倫は笑顔で押さえつけた。

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