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第33話

「図書室! なるほどねー。今日は部活ないから、放課後に図書室へ行こう」 倫は即決し、稜而の手をグイグイ引っ張って図書室へ行った。 「性教育の本、意外と充実してる。ココロとカラダ、妊娠のしくみ、高校生に知ってほしい基礎知識、ジェンダー論、……男女雇用機会均等法?」 倫は背表紙を眺め渡し、手に取って目次へ目を通す。  稜而は棚から一歩下がったところにいて、倫が広げる本を背後から恐る恐る覗いた。 「書いてありそう?」 「うーん。具体的な流れはないなぁ。あ、でもペッティングについて書いてあるから、ここの項目は読んでおくといいかも」 ぽいと渡されて、稜而は焼き立ての芋でも受け取ったように本を手の中で踊らせた。 「ぺ、ペッティングって何?」 「書いてあるから、読みなよ」 書かれた文字や、男女が身体を重ねているイラストを読み進めるうちに、稜而は本を抱えたままその場へしゃがみ込んだ。 「ちょっと、大丈夫?」 「う、うん」 倫はしゃがみ込んだ稜而をちらりと見ただけで、棚に並ぶ本の背表紙の上へ指を掛けては手前に倒して引き抜き、内容を斜め読みするのを淡々と繰り返した。 「相手の身体に触れて……、乳房に触れたり。……首筋? 耳に息を吹き掛ける? そんなのくすぐったいだけじゃないの」 「稜而、静かに。それと、くすぐったい場所は性感帯だよ」 「せいかんたい?」 抱えている本の索引から単語の意味を調べ、稜而は両膝を内にくっつけたまま、ぺたんと床に座り込んでしまった。 「ほら、そこの高校生。床に座りこまないで、ちゃんと椅子に座りなさい!」 司書教諭の声が飛んできて、稜而は大きく肩を震わせ、持っていた本を取り落とし、慌ててその表紙の上に手のひらを重ねた。 「ねぇ、せんせーい。セックスのやり方を書いてある本ってないのー? このままじゃ僕、間違った知識だけでセックスしなきゃいけなくなっちゃうー」 倫のフランクな口調に、司書教諭もにこやかな笑顔で近づいてくる。 「あるわよ。……あら、とてもいい本があったはずなのに。ないわね。ちょっと調べてきてあげる」 図書目録のカードが詰まった木製の引き出しを開け、順番にカードを手繰り、情報をメモ用紙に控えてすぐに戻ってきた。 「図書館の中にあるはずなんだけど。誰かが借りる勇気がなくて、持って行っちゃったかなぁ」 性教育の本は、ときどきなくなるのよねと眉を八の字にして司書教諭は苦笑いする。 「その本、今でも買える? 本屋で注文しようかな。エロ本じゃないから、僕でも買えるよね?」 司書教諭からメモを譲り受けると、倫は稜而の腕を掴んで引っ張った。 「本屋に行こう」 「ちょっと、ちょっと待ってくれって。同じ男なら察しろよ!」 稜而は背中を丸めたまま、小声で叫んだ。

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